コラム

五輪をIOCから守るためにできる3つのこと

2021年08月24日(火)18時00分

予算てんこ盛りの盛大なお祭りでも選手は置き去り、でいいのか(8月9日、東京五輪の閉会式)Thomas Peter-REUTERS

<東京五輪で噴出した問題はコロナ関連を除くと実は過去の大会でも指摘されてきたもので、その元凶はだいたいIOCだ。五輪の予算スリム化、「アスリートファースト」や本当の「平和の祭典」の実現のためにパックンが提案する3つの策とは?>

開幕までのいざこざの後味が悪かったが、終わって振り返ると、オリンピックはやってよかった。そう思っているのは聖火のトーチを持って走った後に、「倒置法」でインタビューに答えてスベった僕だけではない。5月の時点では国民の8割が開催に反対だったところ、閉幕後の世論調査では6割以上が「開催してよかった」と、意見が変わっていった。

もちろん、メダルラッシュもあり、選手の素晴らしい演技もあったが、大規模な感染拡大を起こさずにスムーズな運営ができたのも、この民意の変化につながっているのだろう。海外からの評価も高かった。アメリカの「五輪歴史家」は「パンデミックがなければ最もうまくオーガナイズできた五輪に近い」とコメントしている。少し驚くよね。「五輪歴史家」という肩書きがあるとは!

スポーツ実況の用語で表現してみよう。東京五輪は競技会の運営に関して、難易度の高い技を完成度高く演じきった。スケートボードの解説風に言うと、鬼ヤバかった。

しかし、開催までは......盗作問題、国立競技場の問題、関係者の問題発言、延期・中止騒動などなどと、エラーもオウンゴールも多くて、ファインプレーがとても少なかった。単発的な出来事のほかに、場所、施設、タイミング、予算などを巡る問題や騒動も多かった。

特に、日本に莫大な借金を負わせながら対等な権限を与えず、国民の反対を押し切ってオリンピックを決行したと見られているIOC(国際オリンピック委員会)に対する非難は多い。それも費用もリスクも負った日本国民だけでなく、海外の主要メディアも大ブーイングだった。こんなに「非民主的」とか「詐欺以上」などの罵倒が飛び交ったのはトランプ政権時以来!

深刻な開催都市不足

有名な話だが、これは東京五輪に限った話ではなく、毎回のオリンピックについて回る慢性的な問題。開催前に必ず浮上するもので、毎回国民の反対が高まったり、国内外からの批判が殺到したりしているのだ。その繰り返しからオリンピックを開催する魅力が失われ、今は開催地の候補不足が深刻になっている。

例えば、半年後に始まる予定の北京五輪。そもそも6つの候補地があったところ、ノルウェー、スウェーデン、ポーランド、ウクライナが次々と立候補を取り下げた。最終的にアルマトイと北京だけの一騎打ちになった。アルマトイはどこかというと、カザフスタンの南東部でキルギスのちょっと上。キルギスはどこかというと、ウズベキスタンの右。ウズベキスタンはどこかというとグーグルマップの中。確認してください。

北京五輪の後はさらに先が思いやられる状態だ。決定済みの五輪開催地を順番に並べると、北京(冬)、パリ(夏)、ミラノとコルティナ(冬)、ロサンゼルス(夏)、ブリスベン(夏)となる。はい、後半は連続夏季。地球温暖化で永遠の夏になる見込み......ではなく、冬季五輪を開催したいという国がいないのだ。ブリスベンの次の夏季五輪も危うい。このままだと、近代オリンピックは古代オリンピックと同じく、歴史に残るだけになってしまいかねない。また2000年後に復活するかもしれないけど。

もちろん、生き残り策はあるはず。「固定開催地」とか「分散型開催」などの案が知られている。でも、それ以外にもあるはず。せっかくだから僕も新しい案を提案させていただきたい。「オリンピックの理想を取り戻す」、「オリンピックをIOCから守る」、「持続可能なSDGs五輪を実現する」などのテーマを考えたら、ちょっと閃いてしまったのだ。どれぐらいの貢献になるかはわからないが、少なくとも聖火トーチのリレー後のインタビューで披露したアイデアよりはいいはず。大間違いだ、あれは。二度と使わないね、倒置法は。
 
では、参ろう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story