コラム

日本はコロナ危機ではなく人災だ

2020年04月23日(木)11時50分

マスクや10万円を配ること自体が危機感のなさを表している Issei Kato-REUTERS

<日本より遅れてコロナ危機に襲われた欧米では、大きな犠牲を払いながらももう経済再開へのギアチェンジが始まっている。中国、韓国は既に走り始めた。ところが日本は、今ごろ医療崩壊の危機に直面し、緊急事態宣言を全国に拡大したばかり。なぜこんなに対応が遅れたのか>

欧州はまだ死亡者は増え続けているが、早くも経済活動再開のタイミング、やり方に議論が進んでいる。死者が4万5千人を超え、まだ毎日2500人以上死んでいる米国ですら、再開の時期、やり方をめぐって論争が起きている。再開を求めてデモが起きているほどだ。

アジアではいち早く活動を再開している。それは予想を上回るスピードで収束のめどを立てられたからで、台湾、韓国は世界中から絶賛される対応で乗り切り、中国でさえも経済活動の回復では世界の先陣を切っている。

一方の日本は、緊急事態宣言を4月7日になってから行うというもっとも遅れた動きをし、さらにいまさら、14日にこれを全国に拡げた。さらに、これでは不十分で活動制限をどう強化すべきか、という議論さえ4月22日の今、行われている。

なぜ、日本はこれほど対応が遅いのか、遅かったのか。

科学より世論優先

理由は2つある。

1つは専門知識の不足と軽視である。

政府の感染防止策、対応策は、世論に突き動かされたもので、その世論も、一部のメディアで煽る専門家に振り回されて、かつそれをSNSで増幅した、論理的でないものであり、科学的なアプローチ、検討を致命的に欠いているものであった。しかし、それに対応する形で、専門家を集めた会議などを行っておきながら、結局は、世論優先で政治的に対応を決定してきたために、非常にチグハグで、効率の悪いものになった。

しかし、もう1つは、そしてこちらが決定的に重要なのであるが、日本のコロナ危機は、世界でもっとも深刻度が低いものであったからだ。

死者が出ているから、このような発言は避けるのが普通だが、そのため誰も言えなくなっているが、あえて言うと、日本のコロナ危機は相対的に深刻でなかったし、いまだにそうだ。死者は増え続けているが、いまだに300人弱であり、米国の約200分の1だ。対応を絶賛されているドイツですら死者は5000人を超えている。イタリアはいうに及ばず、スペインもフランスも2万人を超え、イギリスは1万8千で今週に2万を越えるのは確実だ。人口は日本の半分でこれだから、人口比で言ったらとてつもない日本との差だ。

この結果、日本の人々は、真の意味での危機感がなく、ただの空騒ぎをしているのである。

切実な声は、ほとんどが中小企業、とりわけ飲食店からのものだ。このままではつぶれてしまう、死んでしまう、というものだ。ほとんどすべては経済的な危機なのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story