コラム

「中国軍が元軍用機パイロットをリクルートしている」──西側に広がる警戒

2022年11月07日(月)18時15分
中国軍のJ-15戦闘機による空母離発着訓練

南シナ海で行われた中国軍のJ-15戦闘機による空母離発着訓練(2017年1月2日) Mo Xiaoliang-REUTERS

<中国軍による退役した軍用機パイロットへのリクルートは2019年頃から始まったといわれる。中国軍パイロットの練度が向上すること以上に各国政府が恐れるのは──>


・イギリス政府は西側で退役した軍用機パイロットが中国にリクルートされていると警告した。

・すでに何人ものパイロットが高額の報酬で中国軍の訓練にかかわっていたとみられる。

・これは中国軍パイロットの練度を高めかねないだけでなく情報漏洩のリスクも大きい。

中国軍を訓練する西側パイロット

カナダ議会の防衛委員会で11月3日、野党議員から国防省に対して、元カナダ軍パイロットのなかで中国軍の訓練にかかわっているかに関する調査の徹底と、該当者がいた場合の厳罰を求める意見が出た。

これはカナダ政府が10月から行っている、退役したカナダ軍パイロットの身辺調査に関するものだ。

カナダに限らず西側先進国では、自国の軍用機パイロットが中国軍の訓練にかかわっていることへの警戒が高まっている。

発端は10月にイギリス防衛省が「元イギリス軍パイロットのうち約30人が中国軍の訓練にかかわっているとみられる」と発表したことだった。

中国軍によるリクルートは2019年頃から始まったといわれる。それに応じたパイロットの多くは、27万ドル(3000万円以上)にのぼる報酬にひかれて中国に渡ったとみられる。

情報漏洩のリスク

各国政府にとって、訓練で中国軍パイロットの練度が向上すること以上に深刻な問題は、元軍用機パイロットを通じて戦術など軍事情報が漏れることにある。

イギリスの現行法では、職務上知り得た情報の漏洩はもちろん罪に問われるが、外国政府が元軍用機パイロットをリクルートすることや、それに応じて自軍の元兵士が外国軍隊の訓練にかかわることは規制されていない。

そのため、イギリス政府は元軍用機パイロットにこうしたリクルートに応じないよう呼びかける一方、法改正に着手している。

イギリス政府は中国によるリクルートがイギリス以外にもアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど主に英語圏で行われていると警告したため、各国で調査が始まっている。

中国の外でのリクルート

特にその焦点になっているのが、南アフリカのパイロット養成学校、Test Flying Academy of South Africa (TFASA)だ。

中国の国営企業、中国航空工業集団が出資するジョイントベンチャーが運営するTFASAは主に中国人パイロットを訓練しているが、そのなかには中国軍関係者もいるとみられている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬

ビジネス

中国人民銀、アウトライトリバースレポで3月に800

ビジネス

独2月小売売上は予想超えも輸入価格が大幅上昇、消費
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 5
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story