コラム

バイデン政権が目指すアフリカの「失地回復」──アキレス腱は「人権」

2021年11月18日(木)16時10分
ブリンケン国務長官

初のアフリカ歴訪先のケニアで記者会見に登壇したブリンケン国務長官(2021年11月17日) Andrew Harnik/Pool via REUTERS


・アメリカは中国包囲網の形成を念頭に、アフリカでの「失地回復」に本腰を入れている。

・その方針は「人権や民主主義が定着している国に優先的に支援して連携すること」にある。

・しかし、これは途上国の実態を踏まえないもので、価値観に過度に傾いた外交はむしろ中国を利する危険すらある。

中国が勢力を広げてきたアフリカで、バイデン政権は「失地回復」を本格化させているが、その道のりは容易ではない。

「アメリカが帰ってきた」

バイデン大統領と習近平国家主席のリモート会談が行われた直後の17日、アメリカのブリンケン国務長官は初めてとなるアフリカ歴訪をスタートさせた。ケニア、ナイジェリア、セネガルの3カ国訪問は、アメリカが「失地回復」を本格化させるものといえる。

2000年代以降、アメリカはテロ対策と資源調達を中心にアフリカへのアプローチを強めた。

しかし、「対テロ戦争」の厭戦ムードや2014年の資源価格の急落の後、そのアフリカ熱は急速に冷めた。さらに、「アメリカ第一」を叫ぶトランプ大統領が援助を減らしたうえ、ナイジェリアを「肥だめの国」と呼ぶなどの人種差別的な言動がアフリカとの関係をさらに冷却化させた。

これに対して中国は、最近になってインフラ整備にブレーキをかけたものの、ワクチン外交でリードするだけでなく、対アフリカ貿易額でも他の追随を許さない。

現代の米中対立は米ソが対立した冷戦時代と基本的に変わらないところがある。核兵器を突きつけ合う関係で、実際にはダメージの大きすぎる直接的な軍事衝突を避ける必要があるなか、勢力圏をいかに確保するかが勝負どころとなる。

この観点からすれば、トランプ政権時代にむしろ国際的に孤立し、ワクチン外交でも遅れをとったアメリカは、国連加盟国の約1/4を占めるアフリカでの陣取り合戦で、中国に後塵を拝してきたといえる。

陣取り合戦のカギは人権

これを踏まえて、バイデン政権はすでにアフリカなど途上国を念頭に、クリーンエネルギー、農業・交通といった分野のインフラ建設、コロナ対策を含む保健・衛生支援などのため、約8000万ドルを拠出する方針を打ち出している。そのバイデン政権にとって、キーワードになるのが人権や民主主義だ。

戦略国際問題研究所(CSIS)でアフリカ研究を統括し、バイデン政権の国家安全保障会議(NSC)にも参加するジャッド・デバーモンド氏によると、人権や民主主義を重視することは、テロ対策や中国・ロシアへの対抗に役立つという。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story