コラム

日本の所得格差問題を改善するシンプルなやり方

2021年12月15日(水)18時30分

岸田政権が目指す「分配と経済成長の両立」は実現できるのか...... REUTERS/Issei Kato

<岸田政権が2022年以降、経済成長を低める早期の増税が実現するなど、マクロ安定化政策を緊縮方向に転じれば、政権が目指す「分配と経済成長の両立」は到底実現しない>

2021年の年末が近づいているが、日米の株式市場の年初来のパフォーマンス(12月10日時点)は米国(S&P500)+25.5%、日本(TOPIX)+9.5%とかなり開いている。菅首相が事実上の退任意向を示した9月初旬に一時日本株は大きく上昇したが、岸田首相が就任する前後に下落に転じた。日米相対株価指数は、結局、戦後最低水準まで低下して2021年末を迎えることになりそうである。

米国株市場の上昇が2022年も続くかどうかについては様々な論点があり、別の機会で筆者の考えを述べたいと思う。ただ、FRBによる金融緩和が2022年早々に終了、財政政策の後押しも減衰するので、2021年のような高リターンは期待し難いと予想している。

日本株市場の停滞が続く最大の原因とは

本コラムで取り上げるのは、2018年から4年連続で日本株のリターンが米国株に負け続け、もはや常態化しつつある点である。筆者は、この状況に強い危機感を持っている。目ざとい個人投資家は、かなり前から日本株市場から米国市場に主戦場を移しているが、成功する投資家としての合理的な行動であり、米株市場上昇によってリターンを得た方は多かっただろう。

ただ、自国の株式市場への投資で相応のリターンを得らえる状況はより健全であり、個人投資家のリスクリターンの観点からもより望ましいだろう。しかし、残念ながら4年続けて日本株は米国株に負け続けている。

日本企業と比べて、米国企業の方が利益を稼いでいるのは1990年代から続いているのだから、仕方ないと考える方も多いだろう。確かに企業経営者の優劣の差もあるだろうが、それよりも日本では経済成長率を高める経済政策運営の点において、総じて日本の対応が米国よりも劣っていることが、日本株市場の停滞が続く最大の原因だと筆者は考えている。

そして、米国と日本の経済政策の優劣は、コロナ禍という危機を経てさらに差がついたと思われる。もちろん、新型コロナの感染者、死者については、米国の方が格段にその被害は大きい。新型コロナへの公衆衛生政策については、日本人の生活習慣、衛生観念が優れていたことが影響したのだろう、米国よりも上手く対応できた。

問題は、そうした中で2021年に日本の経済成長に大きくブレーキがかかったことである。菅前政権は、他の先進国と同程度にワクチン接種を実現させたが、その前に医療資源拡大を実現させることができなかった。結局、コロナ対応への医療資源の逼迫が起きて、経済停滞が続いたことで、今年の夏に世論の支持を失った。

米国と日本で問題になっている所得格差拡大は、実態が大きく異なる

さて、岸田政権は、ワクチン接種を進めた菅政権のレガシーを引き継いだので、10月の総選挙において絶対安定多数の議席を保ち、現時点でも高い支持率を保っている。そして、コロナ禍後を見据えて岸田政権は経済政策を打ち出している。ただ、具体的な政策をみると、目玉である、限定された子どもに対する10万円給付政策だが、この制度設計に際してクーポン利用にするなど複雑にしたことで、些細な論点において政治資源を費やしているように見える。

そして、肝心の経済成長率を高める政策について、岸田政権がしっかりとした政策を打ち出すには至っていないのではないか。むしろ、将来の金融所得税や消費税などの増税の議論を同時に行っているため、経済成長や株式市場を軽視しているとの疑念が強まっており、日本株市場への期待は更に低下しているのが現状だろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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