コラム

地方選挙から見るドイツ政治:ザールラント州議会選挙の結果

2017年03月29日(水)16時50分

次の世代の政治リーダーをはぐくむ州政治

州首相として再選されることになったアネグレート・クランプカレンバウアーは1962年生まれの54歳の女性である。CDUの幹部でもありメルケル首相にも近い。ザールラント州での政治運営のスタイルと人柄への住民の支持は高い。保守的な女性政治家で堅実な政策の実施により広い社会的な支持を集められるという点ではメルケル首相と同じスタイルであるが、地方政治家としてより積極的に住民と接する姿はより親しみがわくものである。

確かにザールラントは住民わずか100万人弱の小さな州であるが、16ある連邦州のうちCDU・CSUの州首相はヘッセン州、ザクセン州、バイエルン州とザールラント州の4州しかない。経歴、年齢、有権者からの支持、党内での位置などを考えてもクランプカレンバウアー州首相はメルケル後のドイツ政治を展望する上で重要な役割を果たす可能性はあろう。

敗れたとはいえ、SPDの候補であったレーリンガー州経済相は1976年生まれの41歳で、こちらも女性政治家である。ドイツ政治においては、連邦議会の議員として国政でキャリアを積む道と、州政治でキャリアをつんで連邦レベルに転出するパターンがあるが、いずれにしても極めて安定感のある次の世代の政治家が多数州レベルにも見られるのである。

地方の政治は国政の展開に直結するものではないが、中央の政治を支える地方の政治が堅実に運営され、今回の州議会選挙のように二大政党間の争いとなりながら、前回選挙よりも大幅に投票率があがることは、政治への信頼が失われていないことを示しているといえよう。ドイツ経済は一人勝ちといわれるが、その背景には地方レベルからの政治の安定としっかりした政策論争がある。ザールラント州議会選挙はそのことを再確認する機会でもあったといえよう。

プロフィール

森井裕一

東京大学大学院総合文化研究科教授。群馬県生まれ。琉球大学講師、筑波大学講師などを経て2000年に東京大学大学院総合文化研究科助教授、2007年准教授。2015年から教授。専門はドイツ政治、EUの政治、国際政治学。主著に、『現代ドイツの外交と政治』(信山社、2008年)、『ドイツの歴史を知るための50章』(編著、明石書店、2016年)『ヨーロッパの政治経済・入門』(編著、有斐閣、2012年)『地域統合とグローバル秩序-ヨーロッパと日本・アジア』(編著、信山社、2010年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アサヒGHD、決算発表を延期 サイバー攻撃によるシ

ビジネス

高島屋、営業益予想を上方修正 Jフロントは免税売上

ビジネス

日経平均は大幅続落、米中対立警戒で一時1500円超

ビジネス

高島屋、営業益予想を上方修正 Jフロントは免税売上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 3
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃をめぐる大論争に発展
  • 4
    車道を一人「さまよう男児」、発見した運転手の「勇…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 7
    連立離脱の公明党が高市自民党に感じた「かつてない…
  • 8
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 9
    1歳の息子の様子が「何かおかしい...」 母親が動画を…
  • 10
    ウィリアムとキャサリン、結婚前の「最高すぎる関係…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 10
    トイレ練習中の2歳の娘が「被疑者」に...検察官の女…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story