給付策「年収960万円」があぶり出した「家族像」の問題
Rodrigo Reyes Marin-Pool-REUTERS
<所得制限の導入がもたらす分断は、年収が960万円より多いか少ないかのみならず、「世帯年収」の捉え方と絡まり合う形でも表れた>
政府が打ち出した18歳以下を対象とする10万円相当の給付策をめぐって議論が紛糾している。そもそも総額2兆円近くに上る政策の目的や位置付けからして曖昧で、コロナ禍での経済対策、生活支援策だと言うのであれば、あえて子育て世帯に対象を絞り込む理由がよく分からない。
そこに加えて11月10日の自公の党首会談後に発表された「年収960万円」の所得制限だ。この線引きの不可解さが、混乱や批判により一層の拍車を掛けている(編集部注:11月19日、政府はこの給付策を含む経済対策を閣議決定した)。
子供に対して一律10万円相当の支援を届けるというのはもともと公明党の案だった。衆院選の公約では「親の所得で子供を分断せず、不公平感を生じさせないため、所得制限は設けない」としていたが、自民党側からの求めに応じて「全ての子供たち」への給付は諦めたようだ。
山口那津男代表は会談後、「960万円の所得制限ですと、対象世帯のほぼ9割が対象になりますので、大きな分断を招かない」と発言していた。だが実際のところ、さまざまな「分断」を招いているように見える。
所得制限の導入がもたらす分断は、年収が960万円より多いか少ないかという分かりやすい形のみならず、制限の基準となる「世帯年収」の捉え方と絡まり合う形でも表れた。
例えば、夫婦のそれぞれが900万円の年収がある場合(合計1800万円)は給付が受けられるのに、夫婦の片方だけが働いていて1000万円の年収(合計1000万円)では給付が受けられない。既存の児童手当における減額の仕組みに合わせたそうだが、明らかに変である。
総務省の労働力調査によると、共働き世帯(雇用者の共働き世帯)の数は一貫して増え続けており、1980年(614万世帯)から2020年(1240万世帯)までに倍増している。2020年には専業主婦世帯(男性雇用者と無業の妻からなる世帯)との比率が7対3に近づくほどで、過去にさかのぼってみると、80年代までは専業主婦世帯のほうが多かったものの、90年代に共働き世帯が追い抜いている。
「世帯」の年収を計算するのに、1人分の所得しか考慮に入れないという見方は現状に全く合っていない。
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