コラム

電力逼迫は、太陽光発電のせい?

2022年07月07日(木)20時27分

率先して節電中の経済産業省 Issei Kato- REUTERS

<東京で最高気温が35度を上回った9日間、私の家では日中は電力をまったく買わなかった。日中は屋根の上の太陽電池で発電し、エアコンをつけてもなお電気が余ったのだ......再エネは重荷ではなく、希望だと筆者は説く>

6月25日から東京では好天が続き、最高気温が連日35度を超える猛暑となった。そうしたなか経済産業省は6月26日から30日にかけて東京電力の管内で電力需給の逼迫が予想されるので、特に午後3時から6時の時間帯での節電を呼びかけた。

なぜ唐突に電力が逼迫する事態になったのか。テレビのニュースではおおかた次のような説明が行われた。太陽光発電は昼間には多く発電するが、午後3時を過ぎると日が傾いてくるので発電量が減る。しかし、午後3時から6時の間はまだ暑いので、エアコンの利用は減らない。よってこの時間帯には、電力の逼迫が予想されるので、この時間帯は熱中症に気を付けながら不要な照明を消すなど節電に努めてほしい、というのである。

だが、この説明は、事実関係において間違いではないとしても、その背景から理解していないと、視聴者があらぬ方向に誘導される恐れがある。要するに、このニュース解説だけを聞くと、電力が逼迫するのは太陽光発電の比率を高めすぎたせいだ、と言っているかのように聞こえてしまうのである。

自然エネルギーを使う前提

理解しておくべき背景とは、次の2点である。

第1に、日本政府は二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を2030年には2013年に比べて46%削減し、2050年には実質ゼロにすることを約束した。この約束を守るには太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを今の何倍にも増やすか、原子力発電所を再稼働したり新設するかのいずれか、ないし両方をやらなければならない。しかし、原発に関しては、福島第一原発の事故の後始末がいまだに終わっていないことを考えると、新設するのは無理であり、安全性を十分に検証したうえで再稼働するぐらいしかできないだろう。であるならば、再生可能エネルギーの利用を増やすことは日本にとって至上命題である。

第2に、太陽光発電は太陽が照っている間しか発電できず、風力発電は風が吹かなければ発電できないことは当然である。こうした自然任せのエネルギーを利用するには、エネルギー需要とマッチングを図るための手立てを講じる必要がある。今回のように、電力需要は多いのに太陽光や風力の出力が落ちてしまう時は、稼働の調整がしやすい火力発電所や水力発電所を動かして電力供給を増やす必要がある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:大火災後でも立法会選挙を強行する香港政府

ビジネス

リオ・ティント、コスト削減・生産性向上計画の概要を

ワールド

中国、東アジアの海域に多数の艦船集結 海上戦力を誇

ワールド

ロシアの凍結資産、EUが押収なら開戦事由に相当も=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story