コラム

「文革の被害者」習近平と、わが父・李正平の晩年を思って

2016年06月01日(水)21時21分

Darwin Zhou-REUTERS

<習近平総書記も李小牧も共に、50年前に始まった文化大革命に翻弄された少年時代を送った。中国ではその負の遺産がまだ消え去っておらず、当時、造反派だった李の父も、結局"カルト"から抜け出すことなく死んでいった>

 みなさん、こんにちは。李小牧です。

 さて、私と習近平総書記にはある共通点がある、といったら驚かれるだろうか。新宿区議選で落選した"政治家"と一国の元首とを比べるなどおこがましいと思われるかもしれないが、私たち二人は「文革の被害者」という共通点を持っている。

 習近平総書記は1953年生まれ。文化大革命が始まった1966年には13歳だった。父である中国共産党の元老、習仲勲が失脚し、習近平自身も1969年から1976年まで陝西省延安市に下放(知識青年を田舎に送り込み、労働教育を実施するという文化大革命期の制度)された。

 一方、私は1960年生まれ。6歳の時に文化大革命を迎えた。父・李正平はもともと軍人だったが、国共内戦終結後は中学校の国語教師として働いていた。それが文化大革命が始まると、湖南省最大の造反派組織「湘江風雷」のナンバー3に就任。毛沢東を支持し、文革を推進する側に回った。

【参考記事】文革に翻弄された私の少年時代

 中国全土がまだまだ貧しくて車もほとんど走っていなかった頃、父は部下を引き連れてジープに乗り、颯爽と湖南省長沙市を駆け回っていた。私はその姿をはっきりと覚えている。父は本心から毛沢東と文化大革命の理想を信じていた。息子である私も無邪気に父を信じていた。小学校の時、校長先生を批判する壁新聞を作ったことを覚えている。私も小さな紅衛兵(毛沢東を支持した青年・学生たち)だったのだ。

 これだけならば「文革の被害者」どころか受益者という話になってしまいそうだが、人生は一気に急転する。1971年、父は失脚し「再教育名目」で監獄送りとなった。家の前には「打倒 現行反革命分子 李正平」という壁新聞まで貼られる始末。反革命分子を打倒する側から打倒される側へと、我が家の境遇は180度変わったのだった。

 幸いにも父の「再教育」は1年半で終わったが、その後もたびたび連れ去られ、「再教育」を受ける不安な日々が続いた。なによりバレエダンサーになるという私の夢も父の失脚によって終わってしまった。反革命分子の子どもなど学校が受け入れてくれるはずもなかったからだ。もし文革がなければ「歌舞伎町案内人」も存在しなかったというわけだ(笑)。

習先輩は出世街道をひた走り、今では「文革の再来」に

 同じ「文革の被害者」だった習近平総書記と私だが、文革後の歩みはまったく異なる。名誉回復した父親の助けもあって、政治家の道に進んだ習近平総書記は出世街道を邁進。1987年にはすでに国民的歌手だった彭麗媛と再婚、1988年には福建省寧徳市委書記(市のトップ)に就任する。

 その1988年に私は日本へと留学し、歌舞伎町の妖しい魅力に引きつけられていくことになる。歌舞伎町であれこれ雑用をこなす私と出世街道をひた走る習近平先輩とを比べれば、7歳の年の差こそあれ、出世という意味では完敗していることは間違いない。しかし、日本でのカルチャーショックは得がたいものだった。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 9
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 10
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story