コラム

BBCはどうして、ハマスを「テロリスト」と呼ばないのか? 「大英帝国」が送る複雑な視線

2023年10月31日(火)20時35分
パレスチナへの連帯を示す人々のデモ(ロンドン)

パレスチナへの連帯を示す人々のデモ(ロンドン、10月28日) Susannah Ireland-Reuters

<英国での世論はイスラエル支持21%、パレスチナ支持17%と分裂。複雑に絡み合うパレスチナ問題をイギリスはどう見ているか>

[ロンドン発]イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム武装組織ハマスの戦争が英国の世論を分断している。英世論調査会社ユーガブが10月16日に英国の成人2547人を対象にイスラエルとパレスチナのどちらを支持するかと尋ねたところ、イスラエル21%、パレスチナ17%、両方を平等に支持29%、分からない33%と分かれた。

女性のイスラエル支持は15%と男性の28%に比べて低い一方で、パレスチナ支持では男性17%、女性16%、両方を平等に支持は男性30%、女性28%と大差はなかった。政党別では与党・保守党支持者はイスラエル39%なのに対しパレスチナ6%と低く、両方は27%。最大野党・労働党支持者ではイスラエル支持9%、パレスチナ支持27%、両方35%だった。

年齢別では高齢者ほどイスラエルを、若者はパレスチナを支持している。欧州連合(EU)離脱派はイスラエル(35%)を、残留派はパレスチナ(21%)や両方(40%)を支持する傾向が見られる。イスラエル・パレスチナ紛争はユダヤ人国家を建設するシオニズムとナチスのユダヤ人大虐殺、アラブ民族主義が複雑に絡み合うだけに解決するのは容易ではない。

ハマスがユダヤ人1400人を殺害し、少なくとも239人を人質に取ったことでイスラエルは自衛権を発動し、ガザ空爆で8000人以上のパレスチナ人を殺害(ハマスの運営するガザ保健省発表)した。ハマスはイスラエルの過剰防衛でパレスチナ人の犠牲が拡大するのを想定して、これまでにはない規模のテロを仕掛けた。紛争を拡大させる意図が透けて見える。

BBC「われわれの仕事は視聴者に事実を提示すること」

英国政府はハマスを「武装イスラム主義運動」と位置づけ「テロを行っている」と認定する。しかし英BBC放送が頑なにハマスを「テロリスト」と呼ばないことについて保守党政治家や保守系大衆紙デーリー・メール、一部市民の攻撃にさらされている。その理由についてBBCは「われわれの仕事は視聴者に事実を提示し、彼らに判断してもらうことだ」と説明する。

数々の歴史的スクープをものにしてきたBBCのジョン・シンプソン国際問題編集長は「テロという言葉は道徳的に好ましくない組織に対して使われる。誰を支持し、誰を非難すべきか、つまり誰が善人で誰が悪人なのかを人々に伝えるのはBBCの仕事ではない」という。第二次大戦中、BBCはナチスを「敵」と呼んでも「悪」「邪悪」とは呼ばなかった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story