コラム

中国が示すウクライナ停戦案に隠された「罠」と、習近平がロシアを庇護する3つの目的

2023年03月21日(火)13時41分
モスクワで会談した習近平とプーチン

モスクワで会談した習近平とプーチン(3月20日) Sputnik/Sergei Karpukhin/Pool via REUTERS

<ロシアを訪問してプーチンとの関係をアピールすることで外交戦を展開する習近平。米バイデン政権は第三勢力の切り崩しを防げるか>

[ロンドン]中国の習近平国家主席は20日から3日間の日程でモスクワを訪問し、ウラジーミル・プーチン露大統領と会談した。バイデン米政権は中国によるロシアへの武器供与を警戒しており、中国が示す停戦案は「ロシアの侵略」を利するだけだと権威主義国家の中露連携に「深い懸念」を表明している。

「ロシアへの旅は友情、協力、平和の旅になる」という習氏は「プーチン大統領の招きでロシアを公式訪問できることは大きな喜び」と述べた。中国共産党系機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」は「中露両国の専門家は今回の訪問は象徴であり、2国間関係の発展を促進するだけでなく、ウクライナ危機の平和的解決への希望と自信をもたらす」と報じた。

中国は敵対するサウジアラビアとイランの国交正常化協定を仲介するなど、長年にわたる経済重視の外交を転換。環球時報は「ウクライナ危機でモスクワは非西側との関係構築を重要視するようになり、西側の反ロシア政策に従わない国により開放的になってきている。今後の中露協力にはより多くの可能性とチャンスがある」との中国の専門家の見方を伝えた。

英BBC放送によると、習氏はロシア北部のペチョラ川で獲れた白身魚のネルマ、ロシアの伝統的なシーフードスープ、ウズラ入りパンケーキなど7品のコース料理とロシアワインでもてなされた。プーチンは「中国が正義と国際法の基本条項の尊重、安全保障の不可分性という原則に導かれていることを知っている」と中国の停戦案を支持する姿勢をにじませた。

プーチンがこだわる「安全保障の不可分性」

プーチンがこだわる「安全保障の不可分性」とは、一国が単独で安全保障を強化しようとすれば軍拡競争が始まり、「安全保障のジレンマ」に陥ることを指す。ウクライナの安全保障は、ロシアとその影響圏にある国々の安全保障と切り離せないという一方的な考え方だ。ベルリンの壁とソ連の崩壊で多くの旧ソ連圏諸国が西側になびき、ロシアと袂を分かった。

それがロシアの安全保障と国益を損なったとプーチンは思いこんでいる。プーチンがウクライナを自由と民主主義の影響を止める砦とみなしたのと同じように、習氏は手中に収めた香港に続き、台湾を西側に対する砦とみなす。習氏はプーチンのウクライナ戦争に直接加担するのを避けながら、西側の影響力を排除する共同戦線を組む。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story