コラム

英で下院議員殺害 ソマリア系イスラム教徒の犯行 背景に政治の分断とコロナの閉塞感か

2021年10月16日(土)13時09分

犯行現場近くに捧げられた追悼の花束(10月15日) Andrew Couldridge-REUTERS

[ロンドン発]2016年の欧州連合(EU)国民投票でEU残留を訴えていた最大野党・労働党の女性下院議員が白人至上主義者に殺害されたイギリスで、今度は強硬にEU離脱を唱えてきた与党・保守党の男性下院議員がソマリア系イスラム教徒に殺害された。動機は未解明だが、背景としてEU離脱による政治の分断とコロナ危機による閉塞感を指摘できるだろう。

日本では地方選出の国会議員が金曜日に地元の選挙区に帰り、月曜日に東京に戻って来ることを「金帰月来」と呼ぶ。英議会も月曜日から木曜日まで本会議や委員会の日程がぎっしり詰まっており、下院議員は金曜日に地元の選挙区に戻って有権者との面会時間を設けることが多い。16年と今回の議員テロはいずれもこの面会時間を狙って実行された。

15日正午ごろ、イングランド東部エセックス州のメソジスト教会で保守党のデービッド・エイメス下院議員(69)は有権者と面会していた。突然、ナイフを持った男が教会の中に駆け込んできてエイメス議員を12回以上もメッタ突きにした。現場に駆けつけた救急隊員が救命活動を続けたが、エイメス議員は3時間後に息を引き取った。

エイメス議員は有権者と面会する日時と場所をツイッターで告知していた


警察のテロ対策班はソマリア系イスラム教徒(25)を逮捕、英国内でテロ情報を収集している情報局保安部(MI5)と協力してイスラム過激派とのつながりを調べている。目撃者によると男は妙に落ち着き払っていたという。16年のEU国民投票では労働党のジョー・コックス下院議員が殺害されるなど、イギリスでは大戦後、計6人の下院議員が殺害されている。

ハネ上がる議員警護費

米中枢同時多発テロから20年が経過した9月、MI5のケン・マッカラム長官は、コロナ危機中に「最終段階」に入っていたテロ計画を6件阻止したと発表した。過去4年ではその数31件にのぼる。ほとんどはイスラム過激派による計画で、アフガニスタンでの米軍撤退とイスラム原理主義勢力タリバンの復活が一匹狼テロリストを刺激する懸念が膨らんでいた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、退職年金プランへのオルタナティブ資産組み入れで

ビジネス

米のアルミ供給網に穴、イランによる中東製錬所攻撃で

ワールド

アングル:米中間選で広がるフェイク動画広告、有権者

ビジネス

スペースXのIPO、イートレードが個人投資家向け販
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思われるドローンの攻撃を受け大炎上
  • 4
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 7
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ヒドラのように生き延びる...イランを支配する「革命…
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 6
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story