コラム

英国がEUを離脱する確率は、トランプ氏が米大統領選の指名候補になるぐらいある?

2016年02月05日(金)16時30分

 1991年から2014年にかけ、英国にやって来た移民はネットで397万9千人(オックスフォード大学などの調査)。首相キャメロンはずっと年間の移民流入を2020年までに純増で10万人以下に抑えると言い続けているが、実際は3倍以上の33万6千人に達している。移民と外資が英国経済の原動力とは言え、競争が激化し、社会保障費が出稼ぎ移民に使われることに庶民の反発が強まる。

【参考記事】英仏海峡の高速鉄道、屋根に難民!で緊急停止

 EU大統領トゥスクの回答をみると、キャメロンが求めていた「英国に来て4年間、移民は所得保障(タックスクレジット)などの社会保障を受けられない」という制限案については、「財政が逼迫した場合にのみ、段階的に社会保障を受けられるようにする緊急避難措置を認める」と大幅に弱められていた。英国でなく母国で暮らす子供の育児手当の廃止案については「英国の給付額ではなく、出身国の給付額に合わせる」という回答だった。

 難民危機が盛んに報道されるようになった昨年秋以降、世論調査でEU離脱派が残留派を上回ることが増えた。130人が死亡したパリ同時多発テロや中東・北アフリカ情勢の悪化が英国の国民感情をさらに内向きにする。EUとの再交渉が上手く行けば残留という意見が圧倒的に多いことを受け、キャメロンは「大きな前進だ」と交渉成果を自画自賛し、これからは正々堂々とEU残留キャンペーンを展開する構えだ。

【参考記事】イギリス離脱を止められるか、EU「譲歩」案の中身

 それに対する欧州懐疑派は閣内だけでも、年金・雇用相ダンカン・スミス、下院院内総務グレイリング、北アイルランド相ビリアーズ、教育相モーガン、外相ハモンド、エネルギー相ラッド、環境相トラス、運輸相マクロクリン。このほかロンドン市長のジョンソン、元国防相フォックスとそうそうたるメンバーが名前を連ねている。

 EU拡大によって大量の移民が英国に流れ込み、仕事や社会保障費を奪われたと感じる単純労働者と高齢者の怒りが世論の二極化を極端に進めている。英国がEUを離脱する確率はと問われれば、トランプが米共和党の指名候補になるぐらいあるんじゃないだろうか。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 9
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由とは?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story