深刻化する韓国の貧困と所得格差
新型コロナウイルスは今後の韓国の社会、経済をさらに暗くする可能性が高い。より多くの若者が恋愛、結婚、出産、就職、マイホーム、人間関係、夢等をあきらめる立場に置かれてしまうからである。文政権は若者の雇用を増やすために数多くの雇用対策を発表しているものの、多くの仕事は臨時的・短期的仕事に偏っている。若者の間でこのような臨時的・短期的仕事は「ティッシュインターン」と呼ばれている。ティッシュのように使い捨てされるからである。
今後、新しい韓国政権が貧困と所得格差の問題を解消するためにはどのような対策が必要だろうか。まず、高齢者対策から考えてみよう。今後、年金が給付面において成熟すると、高齢者の経済的状況は現在よりは良くなると思われるが、大きな改善を期待することは難しい。なぜならば韓国政府が年金の持続可能性を高めるために所得代替率*を引き下げる政策を実施してきたからだ。
*所得代替率とは、年金を受け取り始める時点における年金額が、現役世代の手取り収入額(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示すものである。
所得代替率は1988年の70%から段階的に引き下げられ、2028年には40%になることが決まっている。所得代替率は40年間保険料を納め続けた被保険者を基準に設計されているので、非正規労働者の増加など雇用形態の多様化が進んでいる現状を考慮すると、多くの被保険者の所得代替率は、実際には政府が発表した基準を大きく下回ることになる。従って、2005年7月から9%に固定している保険料率を段階的に引き上げることにより、所得代替率の引き上げを検討する必要がある。
年金受給開始年齢は65歳に引き上げ
また、国民年金の支給開始年齢は60歳から65歳に段階的に引き上げられることが決まっており、実際の退職年齢(定年60歳)との間に差が生じることになった。高齢者の所得を保障するためには国民年金の支給開始年齢と定年を同じ年齢にし、所得が減少する期間をなくす対策を取らないといけないだろう。
次は働き方の多様化に対する対策だ。非正規労働者の増加が急速に進むなかで、韓国政府は、『期間制および短時間労働者保護等に関する法律』、『改正派遣労働者の保護等に関する法律』、『改正労働委員会法』などのいわゆる「非正規職保護法」を施行することで非正規職の正規職化をすすめ、非正規労働者の増加による労働市場の二極化や雇用の不安定性を緩和しようと試みた。法律が2007年7月から施行されることにより、非正規労働者が同一事業所で2年を超過して勤務すると、無期契約労働者として見なされることになった。
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