韓国政府、ポストコロナ対策として「国民皆雇用保険」の導入に意欲
学校は再開したが、コロナ後の失業対策はこれからだ(写真は5月20日、チェジュ市の高校) Yonhap/REUTERS
<文在寅大統領は、会社員だけでなく自営業者もフリーランスも芸術家も全ての労働者が、突然失業した時に頼れる皆雇用保険を目指しているが>
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で雇用情勢が悪化する中、韓国では全ての就業者に雇用保険を適用する「国民皆雇用保険制度」の導入に関する動きが活発に行われている。2017年の大統領選挙の公約として雇用保険の対象拡大を挙げていた文在寅大統領は、就任から3年目を迎えた5月10日に行った特別演説で、「全ての就業者に雇用保険が適用される基盤を作る......雇用保険に加入していない低賃金非正規労働者の雇用保険加入を迅速に推進し、特殊雇用職従事者、ギグワーカー(gig worker)、フリーランス、芸術家等が直面している雇用保険の死角を早く解消する」と、国民皆雇用保険の実現に向け、「段階的」に取り組む姿勢を表明した。
しかしながら、同日開催された国会の環境労働委員会では特例条項として芸術家を雇用保険の適用対象に含めることが決まっただけだった。その結果、2018年11月に発議された雇用保険法改正案に含まれる運転代行業に従事する運転手や貨物自動車の運転手、保険外交員、放課後教室(日本の学童保育に当たる)の講師等いわゆる「特殊雇用職従事者」や、インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を依頼したり請け負ったりする「ギグワーカー」やフリーランス、芸術家等は対象から外れ、次の国会での成立を待たなければならなくなった。
雇用保険制度の被保険者は労働力人口の半分以下
韓国における雇用保険の被保険者数は2020年3月現在1,378.2万人で、労働力人口の49.5%しか加入していない。日本の労働力人口の64.2%が雇用保険の被保険者であることに比べると多くの就業者が雇用保険の恩恵を受けていないことが分かる。韓国の雇用保険の被保険者数が少ない最も大きな理由は自営業者の割合が高いからである。韓国における自営業者の割合は2018年時点で25.1%でOECD加盟国の中で5番目に高く、日本の10.3%を大きく上回っている。
日韓における労働力人口や就業者に占める雇用保険の被保険者割合(2020年3月)
OECD加盟国における自営業者の割合
では、なぜ韓国では就業者に占める自営業者の割合が高いのだろうか? その主な理由としては、定年が早かったことや公的年金が給付面において成熟していなかったことが挙げられる。まず、2016年に60歳定年が義務化(300人以下の中小企業は2017年から適用)される前までは、定年が定められておらず多くの労働者は50代前半に退職した。一方、公的年金の受給開始年齢は60歳以降に設定されていたので、大半の退職者は生計維持のために再就職か起業を選択せざるを得なかった。しかし韓国の転職市場はそれほど発達しておらず、特に中高年者の再就職は容易ではなかった。また、50代の起業は資本金やリスクの面でハードルが高かった。そこで、退職者の多くは家族で簡単にできる食堂などの「生計維持型自営業」を選択することになったのだ。特にフライドチキンの店の人気が高かった。相対的にかかる資本金が少なく3日~5日程度体験をするだけで開業できたからだ。
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