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『ボヘミアン・ラプソディ』ゾロアスター教とフレディの複雑さ
フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック自身、マイノリティーであり、自分のアイデンティティに悩んだ時期があったという(ロンドンで行われた『ボヘミアン・ラプソディ』ワールドプレミアにて) Eddie Keogh-REUTERS
<フレディ・マーキュリーはインド生まれの両親のもと、アフリカのザンジバルで生まれた。両親はインドに住むゾロアスター教徒「パールシー」だった。映画にはフレディの父が信仰を引き、息子をたしなめる場面がある>
遅ればせながら、日本でも大ヒットした映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た。といっても、出張の飛行機のなかで観たので、おそらく航空会社(しかも中東系)用に大幅に編集されたものである。したがって、作中の刺激的な要素はかなりカットされていた可能性が高いので、作品としての評価は避けておこう。
さはさりながら、クイーンのファンでも、フレディ・マーキュリーのファンでもないわりには、それなりに楽しめたので、きっといい映画なのだろう。実際、本作はゴールデングローブ賞でドラマ作品賞、主演男優賞を獲得、米国アカデミー賞でも主演男優賞、音響編集賞、録音賞、編集賞の4部門を受賞している。
主演男優賞をとったラミ・マレックは、だいぶまえにこのコラムでも取り上げたことがある(「白くない」エミー賞に、アラブの春を思い起こす)が、エジプトからの移民の子で、名前はアラビア語ではラーミー・マーレク、あるいはラーミー・マレクと表記される。フレディと同様、移民の子であり、なおかつ宗教的なマイノリティーであることは、役作りに何らかの影響を与えたであろう。
事実、受賞スピーチでマレックは、みずからの出自に言及し、子ども時代に自分のアイデンティティに悩み、自分が何ものなのかと模索していたと告白している。
エジプト系米国人は2017年の米統計局の調査では約26万人、移民のなかではそれほど大きいわけではない(ただし、米国在住エジプト人を含めると、実際にははるかに多いともいわれている)。エジプトはもちろんムスリムが圧倒的多数を占める国であるが、実は米国に移住したエジプト人のなかでムスリムは少数派で、多数派はマレクと同じ、キリスト教の一派であるコプト教徒なのである。
もちろん、エジプト国内ではコプト教徒は少数派で、全人口の約1割を占めるにすぎない。だが、ブトルス・ブトルス・ガーリー元国連事務総長(元エジプト外相)を筆頭に人口の割にコプト教徒の存在感は大きい。
とはいえ、テロ組織「イスラーム国(IS)」の標的になるなど、昔からエジプトでは差別・迫害・攻撃の対象にもなっており、だからこそ、移民として国外に逃れる人も少なくなかったということだろう。マレクと同じ米国移民という意味では、トランプ政権で大統領補佐官をつとめたディナ・パウウェルもコプト教徒の移民である。
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