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アングル:独総選挙で第1党のメルツ党首、債務ブレーキの迅速な改革否定

2025年02月27日(木)08時13分

 2月25日、ドイツ連邦議会(下院)選挙で第1党となった保守連合キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のメルツ党首(写真)は、財政赤字比率に上限を設ける「債務ブレーキ」の迅速な改革を否定し、議会が大規模な防衛費増額案を通過できるかどうかを判断するのは時期尚早だとの見解を示した。同日、ベルリンにて撮影(2025年 ロイター/Lisi Niesner)

[ベルリン 25日 ロイター] - 23日に投開票されたドイツ連邦議会(下院)選挙で第1党となった保守連合キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)のメルツ党首は25日、財政赤字比率に上限を設ける「債務ブレーキ」の迅速な改革を否定し、議会が大規模な防衛費増額案を通過できるかどうかを判断するのは時期尚早だとの見解を示した。メルツ氏は「近い将来に債務ブレーキを改革するというのは問題外だ」とし、「解決しないといけないことがかなりあり、困難な任務が山積している」と訴えた。

一部の投資家や政党は、低迷しているドイツ経済を回復させ、トランプ米大統領が復帰したことで喫緊の課題となった防衛費増額のため、債務ブレーキを迅速に改革するように促している。

CDUが獲得した議席数は過半数には届かず、極右・極左政党のそれぞれの議席数が急増したため連立協議は難航しており、議会運営は難しくなる見通しだ。

また、ドイツは防衛費を上積みするための特別基金も検討しており、CDUの情報筋によると数千億ユーロに達する可能性がある。

だが、メルツ氏は改選前の下院で通過できるかどうかについて「私たちは互いに協議しているが、今それについて何かを言うのは時期尚早だ。現時点では難しいとみている」と述べるにとどめた。

<新たな不安>

債務ブレーキの改革と防衛費の特別基金をそれぞれ議会で通過させるには3分の2以上の賛成が必要となる。どちらもトランプ氏が返り咲き、敵対的なロシアと自己主張の強い中国が存在している中で、ドイツの安全保障と北大西洋条約機構(NATO)の将来に対する不安を反映している。

英国は2029年以降に国内総生産(GDP)の3%を防衛費として支出することを目指すと発表した。

CDUに属しているバイエルン州のマルクス・ソーダー首相は、各党が防衛費をできるだけ通過することを検討すべきだとして、ドイツが通常の政権樹立プロセスを経る前に「自国の軍事構造について強力な世界へのシグナルを送るチャンスを得ることは、悪い兆候にはならないだろう」と語った。

<迅速な決断>

総選挙で議席数を増やした極左の左派党(リンケ)は債務のブレーキの改革を支持する一方、防衛費の増額には反対する。議席を失う中道派の自由民主党(FDP)は防衛費支出を支持するものの、債務のブレーキの緩和には反対する。

CDUのイェンス・シュパーン下院議員は、次の首相は今年6月のNATO首脳会議までに国防費の増額を示さなければならないと言及した。

メルツ氏は24日、トランプ米政権に対して同盟国に背を向けないように警告を発した上で、「欧州にとって真夜中まで5分しか残されていない」として欧州が自ら防衛力を強化するように促した。

退陣するショルツ政権は、ロシアによる2022年のウクライナ侵攻を受けてドイツの軍備刷新のために1000億ユーロ(1050億ドル)の基金を設立し、ドイツの国防費をNATOの目標であるGDPの2%へ引き上げた。

ドイツの防衛関連企業の株価は25日午前、国防費増額への期待感から上昇した。

退任するボリス・ピストリウス国防相はドイツ紙ビルトに対し、次期政権を担う保守党への注文として「ドイツ連邦軍の十分な装備を確保するためには、債務のブレーキの例外を設けることが事実上避けられない」との認識を示した。

一部の軍当局者は、ロシアのウクライナ侵攻時よりもドイツ陸軍の戦闘態勢が整っていないと嘆く。ピストリウス氏は、必要な投資には「GDPの3%超(の資金が必要)だと話し合っている」と訴える。

一方、JPモルガンは顧客向けの調査ノートで「新たな、あるいはより大きな特別基金を押し通すことは、国防費の増額に反対する左派が出し抜かれたと感じる可能性があるため、後の債務ブレーキの改革を難しくするだろう」との見方を示した。

ロイター
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