ニュース速報

ワールド

焦点:韓国と北朝鮮の「軍拡最前線」、兵器展示会でつばぜり合い 

2021年10月16日(土)08時15分

 北朝鮮で10月11日、兵器を展示する「国防発展展覧会」が開幕した。韓国が最新兵器などを集めて19日から開く「ソウル国際航空宇宙・防衛産業展示会」(ADEX)の直前のタイミングでの開催で、北朝鮮がこうした展示会を催すこと自体、非常にまれだ。写真は、展示会で説明する北朝鮮の金正恩氏。平壌で12日撮影された、同国国営の朝鮮中央通信社(KCNA)による提供写真(2021年 ロイター)

[ソウル 14日 ロイター] - 北朝鮮で11日、兵器を展示する「国防発展展覧会」が開幕した。韓国が最新兵器などを集めて19日から開く「ソウル国際航空宇宙・防衛産業展示会」(ADEX)の直前のタイミングでの開催で、北朝鮮がこうした展示会を催すこと自体、非常にまれだ。2つの兵器展示会は、すでにかなりの軍事力を持つ両国による軍備拡張の最新動向を示すものでもある。

<「私を忘れるな」>

北朝鮮がこの時期に展示会を開催するのは、軍拡競争が激化する中、兵器展示で韓国を出し抜くのも狙いではないかと専門家は指摘する。

韓国航空宇宙学会の元会長、チョ・ジンス氏は「北朝鮮はタイミングを狙いすまして展示会を開催したに違いない。韓国が自国の兵器システムを海外に売り込むために予定しているADEXの前に開催時期を設定し、国際社会の目を引き付けるのが狙いだ」と分析。「北朝鮮は兵器を売るために韓国の展示会に便乗し、『私を忘れるな』というメッセージを発信している」という。

ADEXは2009年以来、2年に1度開催されている。北朝鮮の兵器展示会の開催は、事前に発表されなかった。

北朝鮮の軍事能力に詳しいジュースト・オリエマンズ氏は「今回の展示会開催にはさまざまな事情があったと考えられる」とした上で、「重要なのは、両国が緊張と対立の再燃に備えているという背景だ」とみている。

<兵器披露と指導者の偶像化>

2つの兵器展示会は表面的には似通っており、開催時期も近接している。しかし内容はかなり異なる上、同じ顧客の獲得を競っているわけでもない。

国際戦略研究所のジョセフ・デンプシー氏は、通常は軍事パレードで武器を誇示する北朝鮮が各兵器のデータを記したカードを完備した展覧会の実施を決断したことは「非常に珍しい」ことだと指摘する。

同国は核開発問題で制裁を受けているほか、新型コロナウイルス感染を防ぐために国境を閉鎖している。国営メディアによると同国の展示会を訪れているのは国内の関係者だけで、国外の主要な代表は来ていない。

北朝鮮情勢を分析している「38ノース」プロジェクトのアナリスト、レイチェル・ミニョン・リー氏によると、展示会は金正恩総書記の絵などが飾られており、新兵器のお披露目とともに、指導者の偶像化も目的だ。

<緊張緩和外交の側面も>

一方の韓国のADEXは、主催者の発表によると28カ国から企業440社が参加し、45カ国から国防相など約300人の軍事・防衛関係者が訪れる予定。水素を燃料とするドローン、バーチャルリアリティー(仮想現実)を利用した訓練システム、レーザー兵器、多目的無人車両など、韓国の最新の防衛技術が紹介される。専門家によると、目玉は次世代戦闘機KF-21の試作機などだ。

世界各地で航空宇宙・防衛関連の展示会を手掛けるカルマン・ワールドワイドによると、ADEXの背景には、北朝鮮による「核の脅威」と、その緊張を外交によって和らげようとする取り組みがある。ゆえにADEXは「特別な緊急性と関心を帯びているという特殊性がある」という。

韓国は近年、国防予算を大幅に増額している。北朝鮮に対抗するとともに、米国の支援からも脱却し、さらには軍事輸出産業を拡大するのが狙いだ。国防省は2022年の国防予算として、前年比4.5%増の55兆2300億ウォン(476億ドル)を求めている。

(Josh Smith記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米民主重鎮ペロシ氏が引退へ、女性初の下院議長 トラ

ワールド

トランプ米政権、重要鉱物リストに銅・石炭・ウランな

ビジネス

9月実質消費支出は前年比+1.8%(ロイター予測:

ワールド

トランプ氏、関税は「国民も幾分負担」 違憲判決に備
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中