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アングル:ペルー大統領選のカスティジョ氏勝利、中南米の左派台頭示す
6月21日、中南米に左派の新星が誕生した。それはペルーの次期大統領になろうとしているペドロ・カスティジョ氏だ。小作農の息子、社会主義者で政治家としてほぼ無名の存在だったカスティジョ氏は、元大統領の娘で中道右派の有力者、ケイコ・フジモリ氏を大接戦の末に破った。写真はカスティジョ氏の顔写真のついたシャツを着た支持者、リマで11日撮影(2021年 ロイター/Alessandro Cinque)
[リマ 21日 ロイター] - 中南米に左派の新星が誕生した。それはペルーの次期大統領になろうとしているペドロ・カスティジョ氏だ。小作農の息子、社会主義者で政治家としてほぼ無名の存在だったカスティジョ氏は、元大統領の娘で中道右派の有力者、ケイコ・フジモリ氏を大接戦の末に破った。
カスティジョ氏の当選は、中南米全域の保守勢力にとって不吉な兆しかもしれない。新型コロナウイルスのパンデミックによる貧困の拡大で、大きな政府と社会福祉充実を約束する政治家に有権者の支持が集まり、かつて「ピンクの潮流」と呼ばれた左派政権の広がりが再燃すると予感されるからだ。
今後の中南米各国の選挙で、左右両派の勢力地図が塗り替えられる可能性がある。コロンビアでは保守政権が来年の大統領選を前に逆風に直面。チリでも11月の大統領・議会選で政権を握る中道右派が敗北を喫する情勢にある。同時に反政府デモの強まりを受け、数十年前の軍事政権時代に制定された憲法も、格差是正につながる形に改正されようとしている。
ブラジルも来年の大統領選では、極右で現職のジャイール・ボルソナロ氏が左派にその椅子を明け渡すことになりそうだ。人気のある左派政治家のルラ元大統領は「ペルー大統領選の結果は象徴的だ。愛すべきわれらの中南米における人民の闘争で、新たな進展があったことを示している」とツイートした。
5月の世論調査に基づくと、来年の大統領選の決選投票でルラ氏ないし別の左派候補がボルソナロ氏に勝利する見通し。ブラジルではパンデミックで50万人前後が死亡しており、ボルソナロ氏の対応は幅広い方面から批判されている。
ピンクの潮流として中南米で左派政権が相次ぎ生まれたのは2000年代初め。既にキューバのラウル・カストロ氏、ブラジルのルラ氏、エクアドルのラファエル・コレア氏らが指導者の座にあった上に、ベネズエラでウゴ・チャベス氏、ボリビアでエボ・モラレス氏、ニカラグアでは今なお権力を握るダニエル・オルテガ氏が、それぞれ大統領に就任した。
ところが、彼らが推進した社会福祉プログラムの財源ねん出に役立ったコモディティーの活況が幕を閉じるとともに、ピンクの潮流も弱まって右派が復活。ボルソナロ氏や、コロンビアのイバン・デゥケ氏、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ氏、チリのセバスチャン・ピネラ氏らが政権を樹立したというのが、これまでの展開だ。
そして今、再び左派が台頭してきたことで、中南米にさまざまな変化をもたらすだろう。例えば、米中対立問題での各国の外交姿勢に影響を及ぼす可能性がある。農業や鉱業の分野では、政府介入強化と増税が打ち出されて投資を阻害しかねない。
ボリビアのモラレス元大統領は、ツイッターで「ペルー、チリ、コロンビアでは北米の帝国が資本主義モデルとして国家を育て上げ、ネオ・リベラリズムに対し、反乱が起きているのをわれわれは目にしている」と指摘。学生や社会主義運動家、労働者らが「構造改革」を推し進めていると強調した。モラレス氏は大統領を退いたとはいえ、現在与党の社会主義運動(MAS)党首として国内政界に隠然たる力を保持している。
ペルーに話を戻すと、カスティジョ氏はまだ、正式に大統領選での勝利を認定されていない。しかし、国民の政治指導層への怒りや貧困の増大、地方有権者の間に広がった鉱業資源がもたらす恩恵からの疎外感などを追い風にして、フジモリ氏の得票をわずかに上回った。
カスティジョ氏は、鉱山会社が富を「略奪」していると非難し、医療や教育向上のために彼らに増税を課すとの公約を掲げ、選挙後支持者の前で「巨大な格差を解消する本当の戦いが本日から始まる。われわれは、もう決して虐げられる者にはならない。常に自分の足で立ち、膝を屈しないようにしようではないか」と訴えた。
<信頼の危機>
ペルー以外での左派の勢力伸長ぶりを見ると、アルゼンチンでは2019年の大統領選で中道左派のペロン主義派がマクリ氏に勝利。ボリビアでもいったん危機に陥ったモラレス氏のMASが、昨年の大統領選で大勝を収め、政権に復帰した。
メキシコのロペスオブラドール大統領は左派政権の基盤をしっかりと固めており、ベネズエラとキューバの極左的政府も土台が揺らぐ気配は見えない。
コロンビアは来年の大統領選に関する世論調査で、元左翼ゲリラの候補者が支持率で優勢となっており、保守政権は厳しい立場に置かれている。
何年にもわたって中道右派が安定政権を築いてきたチリでさえ、反政府デモが続いて政治指導層が動揺し、現在進められている憲法改正では、より左派的な政策が盛り込まれるのは確実に思われる。
ペルーの小説家、マリオ・バルガス・リョサ氏はカスティジョ氏に批判的だが、それでも「近年、左翼勢力がかなりの勝利を手にしてきたのは間違いない」と認めた。
一方、ボリビアの中道野党を率いるカルロス・メサ氏はロイターに、既存政党が取り組むべきなのは、左右にかかわらずポピュリスト政治家が発するメッセージにどう対抗していくかだと指摘。「中南米に存在する問題は、民主主義システムと政治システムへの信頼が構造的な危機に直面していることにあると考えている」と説明した。
そうした信頼の危機は、パンデミックによって様々な格差が社会にいかに根付いているかが浮き彫りになったことでさらに強まっている。中南米では多くの人が非正規労働に従事し、医療サービスはしばしば公正さを欠き、何かあっても社会的な安全網が整備されていないからだ。
ペルー国立サン・マルコス大学のミゲル・ロドリゲス教授は「左派が政治利用できる要素が完全にそろっている」と話した。
(Marco Aquino記者)