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日銀YCC、持続性や対話改善を評価 目標未達の再検証必要=早川氏
9月15日、元日銀理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローは、日銀が昨年9月に導入したイールドカーブ・コントロール政策について、金融政策の持続性を高めるとともに、繰り返された追加緩和観測が鎮静化するなど、うまく機能していると評価した。写真は2014年5月都内で撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 15日 ロイター] - 元日銀理事の早川英男・富士通総研エグゼクティブ・フェローは15日、ロイターとのインタビューに応じ、日銀が昨年9月に導入した長期金利も誘導対象にした異例のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策について、金融政策の持続性を高めるとともに、繰り返された追加緩和観測が鎮静化するなど、うまく機能していると評価した。
ただ、YCC自体の物価上昇圧力を強める効果は限定的であり、日銀は早期に再度の総括的な検証を実施し、構造面を含めて物価上昇が鈍い要因を明らかにする責任があると強調。再検証を通じて、政府の取り組みの必要性と粘り強い緩和策の継続を表明すべきとの見解を示した。
物価2%目標の早期実現は難しく、金融政策の正常化を検討する局面でもないとしながら、基調的な物価の動きを示す生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数(日銀版コアCPI)の前年比上昇率が1%程度に上昇すれば、長期金利目標の引き上げや、目標年限の短期化に着手すべきと語った。
──YCC導入から1年が経過したが、どのように評価するか。
「YCCの狙いは、限界のあったQQEの持続性を高めることにあり、その方向性は正しい。これまでのところ、YCCはうまく機能しているのではないか」
「具体的には、YCC以前は展望リポート(経済・物価情勢の展望)で物価見通しが下方修正されるたびに高まっていた追加緩和観測が、見事に消えた」
「また、(長期金利の抑制によって)海外金利が上昇すれば円安が進み、追い風が吹けばそれなりの緩和効果を発揮することも明らかになった。さらに持続可能な枠組みであるとの理解も市場に浸透してきた、ことが挙げられる」
──YCCの物価押し上げ効果はどうか。
「YCCは持久戦向きではあるが、それ自体が強力な物価押し上げ効果を持つスキームではない。日銀は物価2%の達成時期を19年度ごろとしているが、うまく行っても同年10月の消費税率引き上げを踏まれえれば、出口戦略がスタートできるのは20年半ばごろになる」
「国内外のリスクや、すでに戦後最長の景気拡大が視野に入っていることを考えれば、今からあと3年も景気拡大が続くと考えるのは、現実的ではない」
「将来的に景気後退局面に陥る局面では、日銀の保有国債が発行残高の過半となっている可能性が大きく、さらなる国債の買い増し余地は乏しい。評判の悪いマイナス金利の深掘りにも限界がある。両者とも多少は可能かも知れないが、本当に役に立つようなことができるとは思えない。2%実現前に景気後退に陥ることは、かなりまずい状況といえる」
──将来的な景気後退入りに備えてやるべきことは何か。
「好景気と低インフレの共存がいつまでも続くわけがない。本来は今のうちにマクロ経済政策を景気刺激から中立に戻すべきであり、物価が上がっていない中で金融引き締めは難しく、財政を緊縮的にすることが教科書的な対応だ」
「ただ、日銀の緩和策で長期金利が低水準にあるため、政治・政府が財政を緊縮的にしようとは考えておらず、そこに大きな問題がある。このまま景気後退局面に入った場合には、ある種のヘリマネ政策に突き進む懸念がある」
──金融政策に求められることは何か。
「物価2%目標が5年近くも達成できていない中で、あらためて総括的な検証を行う必要がある。来年4月の黒田東彦総裁の任期前にやるべきであり、それが日銀の責任だと思う」
「昨年9月の総括検証はYCCという枠組み変更が前提であり、その分、YCCは評価できるものの、総括検証は中身のないものになってしまった。次の検証を受けてもYCCを変える必要はないが、物価がなかなか上がらない要因として、構造面を含めて日本経済のどこに問題があるかをきちんと検証すべき」
「その結果、構造を変えるには時間がかかるので、金融緩和を粘り強く進めていくことを表明するとともに、政府の取り組みの必要性を訴えることも重要だろう」
「また、検証では出口にも触れるべきだ。そこを語らずに新体制に引き継ぐのは無責任。出口自体はしばらく先になるのはその通りだが、今どうするかによって将来的な出口も変わる」
──金融政策は正常化の方向に舵を切るべきか。
「現在必要なのは粘り強く緩和を続けることであり、正常化ではない。景気が好調で物価が上がらないという時に、なぜ金融政策だけ正常化という話になるのか理解できない」
「もっとも、長期金利ターゲットについては、日銀版コアが1%くらいになれば、ファンダメンタルズに沿って調整すべきだ。ただ、長期金利目標の引き上げは直接的に資産価格に影響を与えるリスクがある。このため、長期金利の目標を引き上げるよりも、年限を徐々に短期化していく方が現実的な対応だと思う」
「18年度中には日銀版コアが1%程度に上昇するとみており、YCCの調整が来年のどこかで起きる可能性はある」
*見出しを修正しました。
(伊藤純夫 木原麗花 編集:田巻一彦)