穏やかな中国語で抗議しても、革命は起きない──問われる中国抗議デモの「質」
北京のデモ隊と対峙する警官(11月27日) THOMAS PETERーREUTERS
<いまだ多くの国民が政府を支持し続けているように見える抗議行動では、体制に大きな変化をもたらす可能性は低い。「ベルリンの壁」よりも「プラハの春」に見える理由とは?>
ベルリンの壁が崩壊する何年も前の話だ。「鉄のカーテン」の向こうのいてつく深夜2時、私はチェコの友人とプラハの壮麗なカレル橋の上に立っていた。
私たちのほかには誰もいない。ブルタバ川の対岸にある電波塔の先に赤い光が点滅している。友人はそれを見て言った。「電波遮断所だ。(米政府の海外向け放送)ボイス・オブ・アメリカ(VOA)をブロックしているんだ」
私は1つだけ知っているチェコ語の罵倒の言葉を暗闇に向かって叫んだ。「クルバ(くそったれ)の電波遮断所!」
友人は驚きと恐怖で笑い、私たちは逃げ出した。次から次へと小さな路地を駆け抜け、体力の限界まで走った。
私がプラハを離れた2日後、警察は友人を捕らえ、破壊工作員のアメリカ人と共謀したとして殴る蹴るの暴行を加えた。共産党の全体主義体制が崩壊したのは、それから10年もたってからだった。
だから私は、中国各地の抗議行動が全体主義体制に大きな変化をもたらす可能性は低いとみている。延々と続く非人道的なゼロコロナ政策に抗議する勇気ある人々は、最初は私の「クルバ」より穏当な中国語で不満を表明し、やがて共産党指導部と習近平(シー・チンピン)国家主席にまで非難の矛先を向け始めた。
抗議の波は広がりを見せているが、習による毛沢東思想と行動規制の再強化に対する批判はまだ少数派だ。習体制には歴史上最も強力な統制手段と、人民解放軍をはるかに上回る治安関連予算がある。現時点で抗議行動は習体制の脅威にはなっていない。
「下からの革命」は既存の体制の破壊に成功しても、継続的な民主化には失敗するケースが大半を占める。大衆の蜂起が本格的な社会的・政治的変革につながるためには、決定的に重要な4つの条件が必要だが、今の中国には2つのみ、不十分ながら当てはまる。
第1の条件は社会が体制の正統性を拒否すること。今回の抗議行動は1989年の天安門事件以来、社会の不満が最高潮に達した証拠だ。若い世代の不満が特に大きいのは、グローバル化や教育、個人の権利と民主主義という欧米の規範に長年触れてきた結果、中国の政治・社会文化が変化したことを示している。
だが決定的に重要なのは、大半の国民が政府を支持し続けているように見えることだ。多くのデモ参加者が求めているのは社会的制約からの解放であり、革命ではない。
第2に、反対勢力を糾合して既存の権威に挑戦できる、新しい権力中枢の候補が存在すること。この権力中枢はレーニンやガンジーのような個人でも、支配層の一部(軍首脳や政治家、派閥など)でもいいが、習は政敵を徹底的に排除している。
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