3つの副題からどのような話に辿りつくかは想像がつかなかったが、3名とも共通するのは、共同体とAIやICTといった科学技術の活用が今後の生き方に重要な役割を果たすということだ。人は様々な共同体の中で生きており、インターネット上での共同体にも所属している人もいるだろう。共同体というとボンディング型の社会資本に基づく強い結びつきが求められるように感じるが、ある共同体の中で強く結びついてしまうと、身内びいきするという偏狭な利他性を生み出してしまう。強く結びついた共同体の中では協力や信頼などの利他的行動をとることはできるが、別の共同体に対しては利他的行動をとらなくなって排他的になってしまうかもしれない。ブリッジング型の社会資本に基づく緩やかな関係の共同体では、偏狭な利他性は生み出されず、非常に多様な人が集まる共同体となる可能性がある。困ったときにある人が助けてくれなかったとしても、別の誰かが助けてくれるし、助けてくれなかったある人は他の人や別の共同体で人助けをしているかもしれないと思えると、他人に対して寛容になれる。自分がある人を助けられなかったとしても、他の誰かを助けていることに気付いてくれていれば、負い目を感じない。いつでも、だれでも、どこでもつながることができるICTはブリッジング型の共同体の形成と相性がいいように感じられる。ボンディング型の共同体にICTを組み込むことは、排他的になりがちなボンディング型の負の側面を緩和することができるかもしれない。
人間は不確実性を回避する傾向にあるが、将来というのは、いつも不確実なものだ。確実であればどうなるかがわかってしまうが、不確実であるからこそ、どのようにでもできる可能性もある。多様な人材が集まる緩やかな共同体の中で生きていくことは、その不確実性を最大限にいかすことができる可能性を秘めているのではないだろうか。
黒川 博文(くろかわ ひろふみ)
兵庫県立大学国際商経学部講師
2015年度 鳥井フェロー
vol.101
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