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過去を生きた人々の判断や行動を検証し、その教訓を後世のために残すということは、極めて重要なことである。例えば国家機関や民間の企業などであっても、自らが過去に行ってきたことを批判的に評価して将来に活かす文化がなければ、それらの組織の未来は暗いと言わざるをえないだろう。過去の失敗に学べない者は同じ過ちを将来また繰り返し、成功に学べない者は自らを高めるためのヒントを得られないまま終わってしまう可能性が高まるからである。
過去の経験を将来に活かすためには、当事者の判断や行動に関する正確な記録が欠かせない。また、それらの史料を可能な限り一般の人達にも公開し、当該組織の外からの忌憚ない意見も受け入れる姿勢も重要になるだろう。記録をどのように作って保存し、将来的な一般公開へとつなげていくか。2018年7月2日に開催された第11回「サントリー文化財団フォーラム・東京」においては、現在日本の歴史学界の最先端を走る二人の研究者に、この課題に対する知見を提供してもらった。
第一報告者である京都大学大学院法学研究科の奈良岡聰智教授は、主に明治後期から1920年代までの日本政治外交史の専門家である。このテーマに関連する史料を幅広く検証していることから、日本の史料館(アーカイブズ)における文書保存と公開の現状と課題についても非常に明るい。奈良岡氏は、日本における史料保存に対する意識は決して低くはないが、それでも一般的に「アーカイブズ先進国」と目されるイギリスと比較すると、やはり見劣りする部分が少なくないと主張する。まずイギリスは、公的機関でない団体の文書公開に対する意識が日本と比べて高く、政党や新聞社など、日本ではほとんど史料を公開しないような団体・企業でも史料を開放している。また、イギリスには日本にはない立法府文書館があるなど、公文書に関しても日本よりアーカイブズが充実している。結果的に、閲覧できる史料の量と種類という両面において、日本はイギリスに大きく水をあけられている。
この状況を改善させるためにやるべきことは多いが、まずは公文書の管理体制を整備することが最優先事項であると、奈良岡氏は指摘する。日本では、イギリスやアメリカと違って政府関係省庁からの国立公文書館への文書移管が義務付けられておらず、各省庁が文書のほとんどを非公開のまま保持しているという現状である。イギリスやアメリカにおいては、公文書は作成から30年経過したらアーカイブズに移管されて公開されるということが原則になっているが、このような方針が日本では確立していない。
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