「台湾のコロナ成功」には続きがあった──オードリー・タン氏講演から
この記事のポイント
・成功例として有名なアプリ、実はマスク在庫ないのに「在庫」ありと表示していた
・店舗は忙しくて、保険証の番号を入力する時間がなかったのが原因
・店主が予想外の解決策を提案
・非エンジニアをも巻き込むことが本当のDX
新型コロナウイルス対策の成功例として取り上げられることの多い台湾。マスクの在庫状況をスマートフォンで確認できるアプリを一般人が開発し、パニックを回避した話は有名だ。ところがこのほど開催されたオンラインイベントに登壇した台湾のデジタル大臣のオードリー・タン氏は「実はこの話には続きがあるんです。アプリが開発された後に、『アプリを信じるな』という張り紙をする店舗が出てきたんです」と打ち明けた。
アプリを開発したのは、一般企業に勤めるエンジニアの男性。Googleマップ上にマスクを販売する薬局などの店舗を表示し、店舗側がマスクの在庫数を入力することで、どの店にマスクが残っているのかを地図上で確認できるというアプリだ。
非常に便利なアプリなので利用者が殺到。ところが、Googleマップは一定数を超えるアクセスがあれば、利用料が従量課金される仕組みになっている。マスクを求める消費者がこの地図に一気にアクセスしたため、開発者の男性に巨額の請求書が送付されることになってしまった。
一人で払える金額ではない。そこで、この男性はエンジニアのオンラインコミュニティに相談。そのやりとりを見たタン氏がすぐに、台湾の総統に直接掛け合って、政府が利用料を支払うことになった。
政府ではなく、市民エンジニアが社会のために便利な技術を開発。政府が迅速に動いて、それを支援する。市民エンジニアと政府が一つになって活動する「シビックテック」の成功例として、世界中のマスコミが大きく取り上げた。
「マスクアプリを信じるな」の張り紙が
ところが「報道はそこで終わっているんですが、実はこの話には続きがあるんです」とタン氏は言う。タン氏が近くの薬局の前を通ると、「アプリを信じるな」という張り紙がしてあった。どういうことかを確認するため、中に入って店主に話を聞いてみたと言う。
買い占めが行われないように、マスクの購入には健康保険証の提示が必要で、一人一枚だけ受け取ることができるようになっている。この店では、午前中にマスクを求める客が殺到。対応に忙しくて、健康保険証の番号をアプリに入力する時間がなかった。そこで整理券と引き換えに健康保険証をいったん預かっておいて、お昼休みに番号をいっせいに入力する方法を取っていた。
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