日本メディアが使う「中国の少数民族」は政治的な差別表現
<中国政府の言う「~族」は政治的帰属を強調する独自の民族政策に由来している>
ウイグルやモンゴル、それにチベットなど、中国の民族問題がクローズアップされている現在、日本のメディアが頻繁に使う表現がある。「中国の~族」「中国の少数民族」などだ。これらは政治的な差別用語になり得るので慎重に用いて欲しい。「民族」は古い概念だが、使い方次第で新たな問題を起こす危険性を帯びている。
今夏に突如として現れた、内モンゴル自治区の民族問題から考えてみよう。
中国政府がモンゴル人に対して中国語教育を強制したことで、大規模な抗議デモが発生。モンゴル人の母語はモンゴル語であるにもかかわらず、他民族の言葉を強要する手法は文化的ジェノサイドに当たるとして反発は強まった。
民族とは、共通の言語と経済、共通の歴史と心理を持つ人間の集団と、社会主義の祖の1人であるスターリンは定義した。これは共産主義を信奉する政治家だけでなく学界でも定着している。「中国的特色ある社会主義」を標榜する中国の理論家らも当然知っているはずだ。それでもあえて定義をすり替えて「少数民族」の1つであるモンゴル人にこの言葉を使おうとしたのには、独自の民族政策があるからだ。
中国には、自国のモンゴル人が「モンゴル人」と自称するのを禁じ、代わりに「モンゴル族」と名乗ることとする不文律の規定があった。筆者は北京の外交官育成の大学で学んでいた頃に、この政策を初めて知った。日本人と会った際に、うっかり「モンゴル人だ」と自己紹介したことで、厳しく「指導」されたのを覚えている。ウイグル人もチベット人もまた同様である。
モンゴル人はモンゴル国だけでなく、ロシアやアフガニスタンなど世界各国に分布する。どう解釈しても「族」は集団を指し、「人」( じん)は個人を意味する。一個人が民族全体を代表することはできないとの考えから、筆者は次第にこの規定に違和感を持つようになり、外交官にもなれなかった。
中国が定義する「~族」とは、中国への政治的帰属を強調した概念だ。モンゴル人にとっては独立したモンゴル国が隣にあるため、祖国への憧れを断ち切ろうと中国は個人に対しても「民族」の使用を強要する。以上は、1980年代半ばまでの話だ。
80年代後半になると、中国政府はスターリンが言うところの民族は具合が悪いと気付き始めた。従来の「民族」は英語のNationの訳語で、国民国家Nation state を建国する権利を持つ、とされてきたからだ。
モンゴル人とウイグル人にも独自の国民国家を打ち立てる権利があるとの危機感を持った中国は、慌ててアメリカで使われ始めていた新しい概念、エスニック・グループを「族群」として導入した。ここから、モンゴル人もウイグル人も「中国のエスニック・モンゴル」「中国のエスニック・ウイグル」とされた。
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