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平野美紀|オーストラリア

すれ違っただけで感染!? デルタ株、驚愕の感染力が詳細分析で明らかに...?

いつになったら収まるのか・・・まったく先が見えない新型コロナウイルスの世界的パンデミック…(Credit:JONGHO SHIN-iStock)

シドニー東部地区で、43日間ぶりに新規市中感染ケースが確認され、6月19日時点で6人に増加。クラスターとなり、しばしコロナ・フリーを謳歌していたシドニーも、にわかに騒がしくなってきた。

なぜならば、このクラスターの最初の感染者が、今、「従来型よりも感染力が高い」と言われている『デルタ株』であることが、ゲノム解析で判明したためだ。

デルタ株は、インドで爆発的に感染拡大し、同国を地獄絵図に変えたとも言われる感染力の高い変異株。拡散が速く、これまで感染力が高いと懸念されてきた英国由来の「アルファ株」より、2倍程度の感染力とも言われ、アルファ株と比較して入院リスクが高まることも指摘されている。(参照

さらに、このシドニーのデルタ株感染ケースを詳細に分析した結果、驚くべき状況で感染が伝播していることがわかってきた。

なんと、感染者と「すれ違った」程度の接触で、感染した可能性が高いというのだ。

麻疹並みの空気感染?

オーストラリアにおける市中感染ケースで、最初に「デルタ株」感染が確認されたのは、メルボルンだった。

メルボルンでは5月下旬に、約3ヶ月ぶりに市中感染ケースが確認され、ゲノム解析により、インドで感染拡大した変異種のひとつ、「カッパ株」であることが判明。

感染者が12人に増加した時点で、ビクトリア州首相代理が

「我々は、強力な感染力のウイルスに直面している。これは、懸念されている変異株で、過去に例がないほど、急速に感染が広がっている」

と懸念を示し、5月27日から1週間のサーキットブレーカー・ロックダウンに踏み切った。(参照

しかし、感染拡大傾向が収まらないことから、6月2日にロックダウンの延長を発表。

この時、ビクトリア州政府のコロナ対策医療チームは、(確認されているのはカッパ株であった時点で)

「これまで我々が経験してきたものとは異なり、知らない者同士がすれ違った程度で感染しているとみられ、これまで換気が感染リスクを軽減することはわかっていたが、これほど感染力がある変異種には、十分でないのかもしれない。これまで効果あったマスクもうまく機能していないようだ」

と述べ、『麻疹』並みの感染力であることを示唆した。(参照

そして、その2日後、メルボルン西部に住む家族2人が、カッパ株より更に感染力が高いと言われる「デルタ株」に感染していることが確認されたのだ。(参照

すれ違っただけで感染した可能性、シドニーでも...

デルタ株による新規市中感染が確認され、感染者が訪れたことで感染する恐れのあるスポットにリストされたショッピング・センターがあるシドニー東部のボンダイ・ジャンクション。(2015年撮影 Credit:funky-data-iStock)

メルボルンでは新規感染ケースが減少し、収束に目途がついたことから、6月10日にロックダウン解除となったが、それから1週間も経たない6月16日、シドニーで43日間ぶりに新規市中感染ケースが確認された。(参照

この最初の感染者の同居人も検査で陽性となり、この2人の排出するウイルスをゲノム解析した結果、「デルタ株」に感染していることが判明。(参照

ニューサウスウェールズ州保健省は、いつものようにこの感染者2人が訪れた場所のリストを公開し、該当地域住民に、同じ場所(飲食店、スーパー、デパートなどの小売店など)を同日同時間帯に訪れた人は、症状の有無に関わらず検査をするよう呼び掛けた。

これは、以前のコラムにも書いたように、「感染者がいる場所にいた(同じ空間を共有した)ということだけでも、感染する恐れがあるから」だ。

こうして、記載リストに該当する住民が検査を受け、新たに感染確認された人のウイルスが、ゲノム解析で最初に感染確認された人と同じ配列であることが判明。

当局は、この2人がどこで接触したのか?を綿密に調査し、この2人が同じ日に同じショッピング・センター内のデパートにいたことを突き止めた。

そして、デパート各階に設置されているCCTV映像の提供を依頼。この映像を分析した結果、同じ時間帯に同じフロアの同じセクションにいたことがわかったのだ。

そして、1つの映像だけでなく、さまざまな角度から、この2人がどの程度接触があったのかを調べるために、更なるCCTV映像をデパート側に要求。

映像を分析した結果、"fleeting contact"(すれ違うなど束の間の接触)である可能性が明らかになったという。

ニューサウスウェールズ州のブラッド・ハザード保健大臣は、19日の会見で次のように述べた。

「この2人は、通りすがる状況で、10cmから恐らく50~60cm程の距離範囲にいたようだ」(参照

また、同日(19日)発表されたもう1件の新規感染ケースは、このショッピング・センターを定期的に歩いて通過していた女性だという。

ショッピング・センター内のどこか特定の店で感染者と遭遇したわけではなく、大きなショッピング・センターの建物内を歩いて通過(通り抜け?)しただけで感染した可能性が高いというが、彼女がいつどのような状況で感染したかは、まだ明らかになっていない。(参照

こうしたことから、当局は、このショッピング・センター全体を「感染者が訪れたことで、感染する恐れのあるスポット」に指定し、この場所を含む、感染ホットスポットとして公開されている場所のリストの日時(=感染者が訪れた日時)に訪れた人は、症状の有無に関係なく、検査をし、当局の指示に従うよう呼びかけている。



シドニーとメルボルンのデルタ株は、異なる経路でオーストラリアに侵入

少し視点を変えて、このシドニーで確認されたデルタ株は、どうやってオーストラリアに入って来たのか?ということに注目してみよう。

最初にデルタ株が確認されたメルボルンから、シドニーへ移動した誰かが運んだ・・・という可能性はないのだろうか?

メルボルンで見つかったデルタ株の市中感染ケースは、検疫隔離ホテルの不備ではないかということが指摘されており(とはいえ、経路は不明のまま)、ゲノム解析により、スリランカから帰国し、検疫ホテルに滞在していた感染者男性と一致していることがわかっている。(参照

一方、シドニーのデルタ株は、ゲノム解析の結果、米国由来であるという。

また、シドニーで最初に感染確認された男性は、国際線クルーを送迎する車のドライバーをしていることから、米国路線の国際線航空会社クルーから感染した可能性が浮上している...といったところだ。

今のところ、はっきりとした感染経路は確定していないが、ひとつ言えるのは、どちらの都市でのケースも「わずかな一瞬ともいえる隙」に感染しているとみられることだ。

ニューサウスウェールズ州政府は、今回のデルタ株クラスターで、シドニー大都市圏での公共機関利用時のマスク着用を再び義務化。また、屋内施設(スーパーなども含む)でも着用を強く推奨するとし、今のところロックダウンにはなっていないが、当局は警戒を強め、規制を強化している。

ワクチン接種が進む国でも猛威を振るうデルタ株

デルタ株は、ワクチン接種の進んだ英国でも猛威を振るっており、イングランド公衆衛生庁によると、新規感染のほぼ全てがデルタ株によるものに置き換わったという。(参照

また、米国でも感染が急増しており、米国内でもデルタ株が優勢になる日は近いと、CDC(疾病管理予防センター)のディレクターは懸念する。(参照

ワクチンの効果を大幅に低下させるとも言われている変異株の出現。(参照

猛烈な勢いで変異して感染力を増しているウイルスに、人類の叡智を注ぎ込んだワクチンは、どこまで対抗できるのだろうか...〈了〉

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著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

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