ロシアが次に狙うのはなぜモルドバなのか
<ロシア軍高官がモルドバの親ロシア派地域「沿ドニエストル」まで支配下に収める計画を示唆。現状のロシア軍には難しいとの見方もあるが>
ロシア軍中央軍管区のルスタム・ミンネカエフ司令官代理は4月22日、ウクライナ南部からモルドバの沿ドニエストルに至る「陸の回廊」構築を目指していると示唆する声明を出した。これを受け、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ以外の欧州諸国にも侵攻を拡大するのではとの危機感が広がっている。
沿ドニエストルはモルドバ領内、ウクライナ国境とドニエストル川に挟まれた細長い地域だ。ロシア系住民が多く、ソ連崩壊後の1990年にソ連から独立したモルドバからの分離独立を一方的に宣言。これが武力紛争に発展し、ロシア軍の介入を招くこととなった。
沿ドニエストルの場所(赤い部分) TUBS/Creative Commons
沿ドニエストルには今もモルドバ政府の支配は及んでおらず、1500人ほどのロシア軍部隊が「平和維持軍」として駐留している。ロシア政府は沿ドニエストルの独立を承認こそしていないものの、この「凍結された紛争」を使ってモルドバがNATOやEUとの関係を強化するのを食い止めてきた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はミンネカエフ司令官代理の発言について、ロシアのウクライナ侵攻は「始まり」に過ぎず、「その次には他の国々をわが物にするつもりである」ことを示していると述べた。
プーチン戦略の先の「可能性」
もっとも、ロシア軍による沿ドニエストルの制圧が可能かどうかについては議論もある。沿ドニエストルにたどり着く以前の問題として、ウクライナ南西部への侵攻がロシアの思うように進んでいないからだ。
ミンネカエフ司令官代理の見解がロシア政府の考えを反映しているのかどうかは分からない。だが一部の専門家からは、その種の攻撃を行う能力がロシアにあるのか疑問視する声も聞かれる。
この問題について、本誌では4人の専門家に意見を聞いた。
■ステファン・ウルフ(英バーミンガム大学教授、国際安全保障論)
「ロシアの勢力圏として、ロシアの超大国という地位の土台として、可能な限り旧ソ連を再構築しようというプーチンの戦略に合致するという意味で、可能性としては考えられるという程度の話だ」
「2014年以降にウクライナで起きたこと、そしてジョージアでこれまでに起きたことは、近隣諸国に対する影響力が弱まると、最終的に領土を奪うという(プーチンの)アプローチに合致している」
「そのアプローチをモルドバで使うには、今、プーチンが構築を望んでいるかも知れないつながった陸地が必要だ。その実現のためには軍事能力が必要だ。(だが)今のところ、ドンバスにおいてさえ、ロシアが大きな前進を遂げているようには思えない」
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