「プーチン万歳!」と叫ぶロシア人の心理を、香港デモ取材から考える

2022年3月12日(土)09時51分
西谷 格(ライター)

悩みながら「国安法」を受け入れる香港人

たとえば、香港の報道の自由を殺したとすら言われる「国家安全法」。日本でニュースを見ていると、全市民が圧政に苦しんでいるようにも見えるが、香港民意研究所がロイター通信から委託を受けて行った世論調査によると、国安法施行直後の2020年8月時点で、約3割の市民が同法に「支持」を表明している。

3割という数字は一部分ではあるが、決して小さくはない。香港社会はそれほど多様で、混沌としている。私が泊まっていたホテルの女性従業員は、当初は「デモを応援している」と力強く語っていたものの、運動が長期化し、暴力行為がエスカレートするにつれて「いつまでも応援を続けられない」とこぼすようになった。そして、国安法成立後は「あれほど社会が混乱してしまったから......」と、悩みながらも同法を必要悪として受忍している様子だった。

もっとはっきりと「治安維持のために国安法は必要だ」と両手を挙げて賛成している人も、稀ではなかった。私たちから見て「悪」であるはずの人々にも、それなりの根拠や理屈があった。そういう「不都合な人々」の声が、欧米や日本のメディアで取り上げられることは極めて少ない。

欧米由来のニュースだけを見ていると、まだら模様であるはずの現実がところどころ都合良く捨象され、画像補正がかかってしまうことがある。

私たちがウクライナ侵攻のニュースを見るときも、欧米寄りのフィルターがかかっている。そのフィルターは、たぶん正しい。でも、絶対的に正しいのかと問われると、私は少し不安になる。複雑な事象を単純化して見ているのかもしれないし、ウクライナやアメリカにとって不都合な真実から、敢えて目を背けている部分だってあるかもしれない。

私たちがプーチン大統領の蛮行を憎むのと同じぐらいの強度で、ゼレンスキー大統領やバイデン大統領に憤怒している人々が、ロシアにはいるに違いない。

できることなら、「彼らの見ている世界」をもっと知りたい。私の立っている場所からは、どうしてもそれが見えないのだ。

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