ワクチン接種が進む中で「異状死」が急増、日本の「死因不明」社会の闇
問題はそれだけではない。都道府県によって、きちんと解剖までして死因を究明してくれる地域とそうでない地域に大きなばらつきがあることだ。例えば広島県は死因究明のための解剖率は1.2%で日本で最も少ない。逆に兵庫県では解剖率36.3%で日本で最も解剖率は高い。つまり、死ぬ場所によって、きちんと死因を究明してもらえるかどうかが変わる「格差」が存在している。
筆者は、そうした死因の格差を各地の法医学者に徹底取材をして浮き彫りにした『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社刊)を最近、上梓した。そこでは、死してなお私たちが直面する死の格差について迫っている。
死因究明の現場を見ると、残念ながら殺人などの見逃しや冤罪が起きてしまう実態や、日本の死因究明制度にまつわる数々の問題が浮き彫りになっており、全ての日本人にとって他人事ではない。その詳細は拙著に譲るが、本項では、そんな問題を抱える死因究明制度のある日本が直面した新型コロナへの対応についても触れておきたい。
筆者はコロナ死への対応について、死因究明のエキスパートである日本大学医学部法医学教室の奥田貴久教授に話を聞いた。奥田教授は、アメリカやカナダで死因究明制度を学んだ国際派の法医学者である。
感染が疑われる場合の対処
まず奥田教授に、日本で新型コロナウィルスに感染した遺体が発見されたらどういう扱いになるのかを聞いた。
「まず自宅で遺体が発見されると、110番通報されます。すると警察が現場に臨場し、検視を行います。警察は現場の状況など丁寧に調べ、警察医にもご遺体を見てもらって、その上で新型コロナ感染が疑われれば、新型コロナ感染の有無を検査します」
つまり、異状死体が自宅などで発見されれば、警察がPCR検査などを実施してその後の扱い方を決める。ただ明らかに事件性が疑われる場合は、新型コロナが陽性でも陰性でも、司法解剖を実施できる大学などの施設に遺体を搬送して、死因の究明が行われる。刑事事件にかかわる可能性があるため、公判などで証拠になる死因究明は不可欠だからだ。
「もちろん法医学会や厚生労働省などが出している新型コロナ対策のガイドラインに沿って、解剖は慎重に行われます」
ウイルス捕集効率の非常に高い医療従事者用のN95マスクなどを装着するなどして解剖が実施されることになる。
それ以外の遺体では、新型コロナ陽性であると判明すれば、「基本的には解剖が実施されないケースが多いでしょう」と、奥田教授は言う。確かに、別の法医学関係者も筆者の取材に、「PCR検査で、新型コロナ陽性だと分かり、犯罪性が低いと推測されたご遺体は解剖をしていない。警察のほうで調べて感染している遺体はもってこなかったので、こちらはコロナのことは何も心配せずに解剖をしていた」と筆者に語っている。