「金鉱の上に横たわる貧者」―アフガンの地下資源と中国

2021年8月20日(金)22時28分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

このとき中国が突如タリバンに接近したと思ったら大間違いだ。

地下資源開発、特に銅の採掘において、中国は長い年月をかけて用意周到に時期が来るのを待っていただけなのである。

駐アフガンの中国大使館が撤収しようとしなかった事実

その証拠に、タリバンの快進撃が始まった8月半ば、アメリカ大使館を始めとして多くのNATO側諸国の大使館が慌ただしくアフガニスタンから撤収しようとしていたのに対して、中国大使館とロシア大使館は微動だにしようとしなかった。

タリバンによって守られることを確信していたからだ。

この事実に注目している人は少ないが、これこそが「タリバンの背後に中国あり」を如実に示す、何よりの証左なのである。

2016年にもう一つの「交換条件」か?

2016年におけるタリバン訪中に始まり、その年に行われたインフラに関する商談に至るまで、中国はタリバンとの接触に関して一切公表しないのだから、ここからは「推測」となる。

中国の動向をじっくり見ていると、2016年あたりから中国における「テロ活動」が急激に減少していることに気が付く。

もちろんこの年は習近平が陳全国を新疆ウイグル自治区の書記に就任させて、ウイグル族の活動を徹底して監視するシステムを構築した年ではある。それが功を奏したこともあるだろうし、また顔認証や監視システムが導入されて2016年あたりを境にして「セキュリティ」が強化されたこともあるだろう。

しかし、2014年まで、あんなに盛んだったイスラム過激派グループによるテロ活動が一気に消滅したことの裏には、どうしても「2016年におけるタリバンとの接触」があるのではないかと思われてならないのである。

すなわち「タリバンを支援するので、その代わりにタリバンは東トルキスタン・イスラム運動の応援を絶対にしてはならない」という「交換条件」を中国はタリバンに要求したのではないかと思うのだ。だからこそ、8月18日のコラム<タリバン政権のテロ復活抑止に関する米中攻防――中露が「テロを許さない」と威嚇する皮肉>を書く必要に迫られた。

なお、2016年以降、中国はタリバンを前面に出した「和平協議」に注力していく。そこにトランプが乗ったという側面が、どうしても否定できないのである。

長くなりすぎた。これに関しては、また別途、考察を試みたい。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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