習近平政権が人権活動家の出国を認めない本当の理由

2021年6月7日(月)18時00分
阿古智子(東京大学大学院教授)

<習近平が先日、重要会議で「愛され、信頼される中国」の国際的イメージをつくり出せと命じた。だが中国政府は、日本留学中の娘が意識不明の重体になった人権活動家の出国すら認めない。恐怖政治の裏側にある極度の緊張状態ゆえだ>

習近平国家主席は5月31日、中国共産党中央政治局の会議で、国際社会とのコミュニケーションにおいて「開放的で自信をもち、謙虚で控えめ」な姿勢を示した上で、「信頼され、愛され、尊敬される」中国のイメージをつくりだすよう指示した。国際社会における中国のイメージは悪化の一途を辿っている。私の身の回りにも「自国(中国)の強硬な姿勢をよいと思わない」と(小声で)話す中国人が少なくない。これでは中国のソフトパワーは弱まる一方であり、政治局会議での指示は習近平政権も危機感を感じていることの表れなのか。

私は大学の中国研究者だが、メディアの取材を受け、エッセイやコラムを書き、SNSでも発信する。気づけば、このところ毎日のように中国のネガティブな情報を流しており、正直うんざりしている。前向きな情報や考えを発信したいのだが、どうしても批判的な見方が多くなってしまう。

ある時ツイッターで、誰だか知らない人が、私のアカウントを「カラー革命」(2000年頃から東欧や中央アジアの旧共産圏で政権交代を目指して行われた民主化運動)というカテゴリーに入れていた(私の方ですぐに削除させてもらったが)。私が中国の現政権を転覆させようとして、悪い情報ばかりを流しているとでも言いたいのだろうか。私は基本的に、中国の政治を変えるのは中国人自身だと考えており、中国の政権転覆を図る活動を行うつもりなど毛頭ない。

「敵対勢力」への過剰な反応

しかし中国政府は、香港のデモ活動や中国の民主化運動に「海外の敵対勢力」から資金が流れ、活動を支援している実態があると主張している。多くの団体が活動の理念として、民主主義や人権の価値を広めることを掲げているし、特定の国の政治目的と強いつながりのある団体が存在することも事実だが、そうした動きを全て政権転覆に結びつける必要はないだろう。だが中国政府は、過剰なほどに「国家の安全」を強調し、「敵対勢力」への監視や取り締まりを強化している。

私自身は、先にも述べたとおり、あくまで研究者として関心のある問題を分析し、発信してきた。「参与観察」という社会学の手法で、中国の貧困や社会問題のプロジェクトにメンバーの一員として参加し、観察を続けてきたため、私の視点はどうしても権力者側ではなく、社会的弱者の側に傾きがちだ。しかし、それは学問的な関心に基づくものであり、弱者の声が聞こえにくい現状を考えてのことでもある。

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