「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!

2021年6月4日(金)21時25分
ローワン・ジェイコブソン

論文はRaTG13の起源については曖昧で、中国南部の雲南省に生息するコウモリから以前検出されたと述べるだけで、いつ・どこで発見されたのか具体的な言及はなかった。

デイギンはこの論文に疑念を抱いた。新型コロナウイルスは、RaTG13あるいはその関連ウイルスを調べていて、遺伝子を混ぜ合わせたり、照合したりする作業の過程で生まれた可能性があるのではないかと考えた。デイギンの投稿内容は包括的で、説得力があった。シーカーはデイギンの説をレディットに投稿。するとすぐに、彼のアカウントは永久凍結された。

この検閲の気配が、シーカーの好奇心とやる気を刺激した。ツイッター上にあるグループのアイデアをさらに読んでいくと、「この問題について活発に議論し、調査しているグループが見つかった」と、彼は本誌へのメールで述べた。

この刺激的なグループを構成していたのは、起業家やエンジニア、それにロッサーナ・セグレトという米インスブルック大学の微生物学者もいた。彼らは互いに面識はなかったが、新型コロナウイルスの起源が動物という通説に疑問をもった点が共通していた。

アジアのどこかに暮らしているという冗談好きのコーディネーターがグループの会話を管理していた。この人物はビリー・ボスティックソンという偽名を使っており、ツイッターのアイコンには、痛めつけられた研究用のサルの絵を使っている。

真相を明らかにする使命感

まさにシーカーにぴったりのグループだった。「彼らの手助けを得て、詳しいことを学んでいった」と彼は言う。「いつの間にか、この謎にすっかり夢中になっていた」

彼を駆り立てたのは好奇心だけではなく、ひとりの市民としての責任感でもあった。「新型コロナウイルスは、数えきれない人の命を奪い、大勢の人の生活を破壊した。多くの謎も残しているのに、その追跡調査が行なわれていない。人類には答えを知る権利がある」

シーカーをはじめとするメンバーたちは徐々に、RaTG13がその「答え」の一部を解明する上での鍵を握っているのではないかと確信するようになった。

グループのスレッドでは、6人ほどの参加者がこの謎について活発な議論を展開。彼らはヒントを求めて、インターネットや武漢ウイルス研究所の過去の論文をくまなく調べた。彼らは世界中の人々が見られる形で、リアルタイムでデータを更新し、さまざまな仮説を検証し、互いの意見を修正し合い、幾つかの重要な指摘を行った。

RaTG13の遺伝子配列が、石正麗が何年も前に発表した論文に記されていた遺伝子コードの一部と完璧に一致した、というのもその一つだ。この遺伝子コードは、武漢ウイルス研究所が雲南省のコウモリから発見したウイルスのものだった。

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