台湾のTSMCはなぜ成功したのか?
「どうぞ、あなたの設計した半導体を私の企業で製造させてください」という企業が台湾で誕生した。シリコンバレーのベンチャー企業たち、中でも一定程度には成長したが製造工場を持たないファブレス(工場なし)企業は、一斉にTSMCに向かった。
張忠謀に、「台湾に戻ってこないか」と声を掛けた当時の経済部長・孫運璿も中国大陸の山東省生まれ(1913年)だ。日中戦争や国共内戦を逃れて台湾やアメリカに移住した「非中国共産党系中国人」は大きなネットワークを形成している。TSMCに一部投資した工業技術研究院の創設者・孫運璿にとって、シリコンバレーに声を掛けるのは容易だった。張忠謀自身にもルートがある。
こうしてTSMCが世界一になるまでに時間はかからなかった。
と同時に時代は半導体設計を担う「ファブレス」とそこが設計した半導体の製造のみを受託して製造する「ファウンドリ」に分かれる水平分業時代に移っていったのである。
TSMCを不動のものにした張忠謀のスマホ時代到来への予見
張忠謀の凄さはそれに留まらなかった。
2010年、彼は「次に必ずスマホ時代が来る」と予見して、それまでの倍である59億ドルを投入して生産拡大をし、スマホ時代をリードするに至る。
スマホは消費電力に関して敏感な製品だ。
パソコンのCPU(Central Processing Unit。制御や演算を担当するプロセッサ)は、半導体チップの微細化(何ナノメーターまで小さく出来たか等の技術)が多少遅れても、パソコンが少し熱くなって電気代が増えるくらいの損失で済むが、スマホのSoC(System on a Chip。集積回路ICの一個のチップ上に、スマホのCPUや他のさまざまな機能を統合した心臓とも言えるチップ)の消費電力は、直接、バッテリーの持続時間という致命的な問題につながるので、プロセスの微細化に非常に敏感にならざるを得ない。
その例として、iPhoneのSoCの変遷が挙げられる。
たとえばAppleのiPhoneのSoCは、iPhone 5sが搭載する「Apple A7」までは韓国のサムスンが作っていたのに対して、iPhone6が搭載する「Apple A8」になるとTSMCが製造した20nmプロセスを使用するようになった。