コロナに勝った「中国デジタル監視技術」の意外に地味な正体

2021年5月6日(木)18時40分
高口康太(ジャーナリスト)

中国人には身分証と呼ばれる国民IDが付与されている。14億人民の一挙手一投足を全て見張ることはさすがに不可能だが、政府機関が保有している顔写真データを使えば、カメラに映し出された人物が誰かを確認できる。

本人確認さえできれば、スマホがなくても政府の保有しているデータで、健康コードの安全確認は可能。だから顔認証だけでのチェックインが実現できる。

さらに興味深いのが、他国で導入された接触確認アプリとまるで設計思想が異なる点だ。

各国でさまざまな接触確認アプリが開発されているが、最も多いのが日本の「COCOA」にも導入された、グーグルとアップルのシステムを採用したものだ。無線通信機能のブルートゥースを活用し、近距離にある他のスマホを感知する。つまり、感染者がすぐ近くにいたのかどうかを把握する仕組みだ。

一方、中国の健康コードでは基地局ごとの大ざっぱな滞在地(数キロ間隔で離れていることもある)か、チェックインした場所しか把握できない。

こう見ると、COCOAはより精度が高いように見えるが、ブルートゥースによる距離把握には誤差が多い。一方、健康コードは精度こそ低いものの、どこに滞在していたのかという情報を確実に把握できる。感染者と近い距離にいたかどうかは把握できないが、同じ場所にいた人間を全て隔離、検査すればよいという割り切りだ。

情報の収集、統合、表示という仕組みはさらに拡大を続けている。PCR検査やワクチン接種の記録も身分証番号に基づき記録され、オープンデータとして公開されるようになった。

中国で配車アプリや出前代行を使うと、ドライバーの情報がアプリに表示されるが、名前と共に「ワクチン接種済み」というアイコンが表示される。

また、山東省では試験的に健康コードにワクチン接種情報を追記する試みも始まった。接種済みの人はQRコードの周囲が金色の枠で囲まれる。スマホ画面を見せれば、自分がワクチンを接種済みかどうかをすぐに証明できる。

※後編に続く:コロナ落第生の日本、デジタル行政改革は「中国化」へ向かう

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