3Dプリンターで「移植可能な臓器」ができる日は近い:最新研究
<形も機能も本物と同じ臓器を作るコピー技術が、再生医療を大きく前進させる>
ここ数年、医療の世界では3Dプリンティングの利用が爆発的に拡大している。今や義肢から手術器具まで、多種多様な器具が日常的に3Dプリンターで作製されている。
とりわけ今、急ピッチで研究開発が進んでいるのは、3Dプリンティングの技術を応用して、細胞の塊や皮膚片などのバイオマテリアルを作製する3Dバイオプリンティングだ。これは基本的に、バイオインク(生きた細胞を使ったゲル)を立体的に積層して組織を作製する技術だ。その究極の目標は、形も機能も本物そっくりの臓器を作って、生体に移植できるようにすることだ。
既に、患者の臓器そっくりの構造物を作製して、医師たちが治療や手術の検討に使う試みは始まっている。ただ、実際に人体に移植するまでには至っていない。いくら本物そっくりでも、生命を維持する血液やリンパ液の流れる血管系につなぐことは、まだ極めて困難なのだ。
一部の軟骨などの非血管組織の作製は成功しているし、特殊なゲルやナノ繊維が含まれるバイオインクで、骨組織を支える足場材料の作製も報告されている。動物の心臓組織や血管、皮膚などを使った研究でも、多くの有望な結果が得られており、技術的には「移植可能な臓器の作製」という究極の目標の達成は近づいているように見える。
現時点ではまだ技術的な限界もあるが、3Dバイオプリンティングは今後も着実に進歩を遂げ、多くの患者の生活の質を改善しそうだ。
2019年だけでも、世界中から多くの画期的な研究成果が報告された。アメリカでは、ライス大学とワシントン大学の共同研究チームが、ハイドロゲルを使って複雑な血管網を持つ人工肺の3Dバイオプリンティングに成功した。
イスラエルのテルアビブ大学は、人間の細胞を使ったバイオインクで「細胞、血管、心室」を含む心臓を作製した。一方、英スウォンジー大学は2016年に、バイオマテリアルを使った骨組織のプリント工程を開発した。
目覚ましい勢いで研究開発が進む一方で、法規制はそれに追い付いていない。そもそも、3Dバイオプリンティングをどのようなカテゴリーに位置付けるべきかという点から、一筋縄ではいかない。例えば、3Dバイオプリントされた心臓は、臓器と見なすべきなのか、それともプロダクト、あるいは医療機器と見なして規制するべきなのか。
また、バイオプリンティングは、新しい規制の枠組みが必要な領域なのか、それとも既存の枠組みで規制できるのか。既存の枠組みを使う場合は、どれを適用すればいいか。バイオマテリアルが含まれるからバイオ医薬品の枠組みを適用するべきなのか。
そうなると癌治療薬やリウマチ性関節炎の治療薬など、さらに複雑な分類が必要になる。あるいは新生児向け副木のように、患者それぞれに合った形にカスタマイズできる性質を重視して、医療機器の規制をアレンジして適用するべきなのか。
3Dプリンティング全般、とりわけバイオプリンティングが今後急速に進歩を遂げることは間違いない。政策当局は、その進歩を安全かつ有効に規制していけるよう、これまで以上にこの分野に注目するべきだ。
Dinusha Mendis, Professor of Intellectual Property and Innovation Law and Co-Director of the Jean Monet Centre of Excellence for European Intellectual Property and Information Rights, Bournemouth University and Ana Santos Rutschman, Assistant Professor of Law, Saint Louis University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
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