「制裁逃れの多発地」の悪評を覆すマレーシアの英断が、北朝鮮を追い詰める
<マレーシアが初めて制裁違反の容疑者をアメリカに引き渡した。東南アジアが北朝鮮の金融犯罪の温床であることを踏まえれば、その決断の持つ意味は大きい>
歴史上で初めての出来事だ。マネーロンダリング(資金洗浄)や、制裁対象の贅沢品を北朝鮮に送った罪などに問われている北朝鮮国籍でマレーシア在住の実業家が3月17日、米当局に身柄を引き渡された。
これは対北朝鮮制裁の実効性確保にとって重要な進展だ。それだけではない。マレーシアが国際金融システムの整合性に貢献し、制裁逃れの多発地という国際的悪評に対抗する上でも大きな意味を持つ。
今回の一件だけで、東南アジアでの北朝鮮の違法な金融活動全体が座礁することはないかもしれない。それでもマレーシアの決断は、国際法と北朝鮮をめぐってほかのASEAN加盟国と協議する際の材料になる。
アメリカに引き渡されたムン・チョルミョン被告が、マレーシア当局に拘束されたのは2019年。FBIによれば、ムンはダミー会社を通じた資金洗浄やシンガポールからの制裁対象物資の発送に関わり、国連とアメリカの対北朝鮮制裁に違反した。
ムンは全ての容疑を否認し、移送差し止めを求めていたが、マレーシア最高裁は申し立てを棄却。3月9日、アメリカとの犯罪人引き渡し条約に従い、米当局に身柄を引き渡す決定を下した。
北朝鮮の違法行為が東南アジアでほとんど規制されていない実情を考えると、その意味は特に大きい。同時に、今回の決定はマレーシア・北朝鮮関係の悪化を示唆している可能性がある(北朝鮮は3月19日、無実の自国民をアメリカに引き渡したとしてマレーシアとの国交断絶を発表)。
北朝鮮は、複雑な資金洗浄スキームや表面上合法的な国外事業を隠れみのに、東南アジアで違法な金融活動を展開してきた。なかでもマレーシアは暗殺や禁制品密輸、サイバー金融犯罪など、数々の違法行為の現場になっている。
国連の専門家パネルは2017年の報告書で、マレーシアに本拠を置くグローバル・コミュニケーションズ社(グローコム)は、北朝鮮国外での資金調達を支援するパン・システムズ平壌支社のフロント企業だと指摘した。昨年発表された米軍の対北朝鮮戦略マニュアルは、北朝鮮の違法サイバー活動の5大ホットスポットの1つにマレーシアを挙げている(残りは中国、ロシア、ベラルーシ、インド)。
金融犯罪がはびこる訳
ムンの身柄引き渡しは、東南アジアでの法的枠組みや制裁コンプライアンスの強化を告げる先例になるだろう。北朝鮮は長年、東南アジアの金融・法律・機構面での弱点を利用し、兵器開発の資金源となる金融犯罪に従事してきた。
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