過去最悪の治安情勢で、祖国アフガニスタンを捨てる人たち

2021年3月3日(水)17時00分
ステファニー・グリンスキ(ジャーナリスト、写真家)

<駐留米軍の完全撤収が迫るなか民間人攻撃が急増、故国を捨てて移住する動きが再び広がっている>

ほこりまみれの街並みと雪を頂いた山々が眼下を飛び去っていく。飛行機がエンジン音を立てて上昇するなか、アフガニスタンのパスポートを握り締めたジャワド・ジャラリ(30)の目に涙があふれた。故国から去るのは、たやすいことではない。

「戦争はとてもむごい」と、報道写真家のジャラリは言う。「全てを奪われる。仕事も安全も、希望も夢も」

アフガニスタンでの紛争が始まってから20年近くがたち、アメリカは同国からの完全撤収に向かっている。荷物をまとめて出て行こうとしているのは、米軍だけではない。

アフガニスタンではこの1年、なかでも過去数カ月間に、国内各地の治安が前代未聞のレベルに悪化している。特に深刻なのが首都カブールだ。

昨年9月以降、暗殺事件が200件前後発生していると、ある治安当局者は語る。独立団体アフガニスタン・ジャーナリスト安全委員会によれば、狙われているのは報道関係者だ。この1年間に起きた暴力事件は132件で、アフガニスタン人ジャーナリスト7人が死亡し、18人が負傷した。

国連によると、アフガニスタンでは昨年、民間人3000人以上が殺された。昨年9月にイスラム原理主義勢力タリバンとアフガニスタン政府が和平交渉を始めて以来、民間人犠牲者数は急増している。

今やカブール市民にとっては、爆発の音で目を覚ますのが日常だ。市民は爆弾攻撃のパターンを割り出そうとし、ラッシュアワーの外出、あるいは外出そのものを避けようとしている。

だがジャラリの場合、家に籠もることも選択肢でなくなった。自宅の近所がロケット弾攻撃を受けたのは昨年11月。絶え間なく続く攻撃と不安に心をむしばまれた。

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