ロシアの毒殺未遂にメルケルが強気を貫けない理由

2020年9月17日(木)17時10分
ブレンダン・コール

<メルケル独首相はナワリヌイ氏の毒殺未遂について、ロシア政府を非難──だが両国を結ぶ大規模パイプライン事業の存在がさらに強いメッセージを発信する障害に>

ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナワリヌイに毒物が使用された事件は、国際社会に厄介な問題を突き付けている。ロシア政府に強いメッセージを発信するにはどうすればいいのか、という問いだ。

ナワリヌイは、シベリアからモスクワに向かう旅客機の中で意識不明の重体となった。旅客機は緊急着陸し、ナワリヌイはシベリアのオムスクにある病院に入院。その後、家族らの希望でドイツに移送され、鎮静剤などで昏睡状態にあったものの、現在は意識を回復したという。

ドイツ政府は、ナワリヌイが神経剤のノビチョクを投与されたことを示す「疑いのない証拠」があると主張する。ノビチョクは旧ソ連時代に開発され、2018年には英ソールズベリーでロシアの元スパイであるセルゲイ・スクリパリとその娘に使われた。ロシア政府はナワリヌイの事件について、一切の関与を否定している。

9月4日には欧州議会議員100人がEUに対し、この事件について国際的な調査を求める書簡を提出した。EUの議長国は、現在ドイツが務めている。この事件にドイツが果たしている役割を考えても、議員たちの訴えは大きな意味を持つ。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、最も著名な反体制派の「暗殺を試みた」とロシアを厳しく非難した。「これ以上はないというほど明快な言葉だった」と、イギリスの駐ベラルーシ大使を務めたナイジェル・グールドデービスは言う。「メルケルは全てを投げ出し、カメラをにらむようにして語っていた。そんな細かな部分が事の重大さを物語っている」

だがメルケルは今、ロシアとドイツを結ぶパイプライン「ノルドストリーム2」の建設停止を求める圧力に直面している。バルト海の底を通るこのパイプラインは2005年に独ロ両国が建設に合意したもので、完成が間近に迫っている。開通すればロシアからドイツへの天然ガス輸送量が大幅に増え、経済活性化につながると期待される。

メルケルはこの事業とナワリヌイ事件は切り離して考えるべきだと表明してきたが、国内外の反発は大きい。特にアメリカは、自国エネルギーの輸出を促進したい狙いと、ドイツがロシアのエネルギーに過度に依存することへの懸念から、ドイツ政府への圧力を強めてきた。ただしドナルド・トランプ米大統領はナワリヌイへの毒物使用について、「まだ証拠は何も見つかっていない」としか述べていない。

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