イソジン品切れ騒動に学ぶインフォデミック 情報の真価を見極める方法とは

2020年8月18日(火)11時06分
加藤眞三(慶應義塾大学看護医療学部教授) *東洋経済オンラインからの転載

そもそも、公表された大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センターの研究計画を見ると科学的な根拠が弱く感じられます。ポビドンヨード液でうがいをしたところ唾液中のウイルス量が減少したという結果を根拠に、重症化を予防したり、他者への感染を予防したりするのではないかとの推論には論理の飛躍があるように思います。

科学的な研究は本来、過去の論文を積み上げた先になされるものです。ポビドンヨードのうがい薬がコロナ対策としてよさそうだと考えた場合でも、科学的な方法にのっとり、適切な統計処理がなされ、新しい事実として学術雑誌などに報告されたものでなければ、今回の会見のような形で発表されるのは望ましくないし、マスコミも取り上げるのは適切ではないと考えます。

長期間、大人数が対象となる感染予防の考え方

新型コロナウイルスの感染予防は、今後年単位の長期間のものとして考えねばならず、対象となる人も一般市民全体と大人数になります。ポビドンヨード液の副作用として、ショックやアナフィラキシー(呼吸困難、不快感、浮腫、潮紅、じんましん等)などの発症は0.1%未満と発表されていますが、分母が大きくなれば無視できません。

ポビドンヨード液を使用すると、血中ヨウ素濃度が高くなり甲状腺機能にも影響をもたらす可能性があります。咽頭の常在細菌が消失するため、かえって健康を害する結果になる可能性も指摘されています。万が一、年単位で数百万人もが使用すれば、稀な副作用も無視のできないものになります。

幸い、その後の新聞などの報道では、科学的なエビデンスが十分でないと解説が付け加えられています。しかし感染拡大が続く現状を考えると、今回のような不確実情報が瞬く間に全国に広がり、人々の行動に影響を与えてしまうようなことが繰り返されるのではないかと危惧しています。情報に振り回されることなく、しっかり情報を吟味して行動できる人々が増えるよう、反省する機会としてとらえることが必要でしょう。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事へのリンクはこちら

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