台湾の力量:コロナ対策の原動力はスピード感、透明性、政治への信頼

2020年8月3日(月)07時05分
ニック・アスピンウォール(ジャーナリスト)

蔡は日本やオーストラリア、南・東南アジア諸国との関係を優先させることで、同地域における台湾の地位向上に取り組んでいる。文化・貿易面での他国とのつながりを多様化させ、中国への経済依存を減らすことを目指す彼女の目玉政策「新南向政策」の取り組みの一環だ。

西オーストラリア大学で台湾の対東南アジア諸国外交政策を研究しているラティ・カビナワは、新型コロナウイルス対策によって台湾は「中国が影響力を維持しようとするなかでも、他国との間の善意を促進し、東南アジアでの足場を固める」これまで以上に大きなチャンスを手にしたと指摘する。

台湾はアジア諸国との貿易・インフラ面の協力を維持する上で大きな前進を遂げてきたが、長年「一つの中国」政策への対応に苦慮してきた。台湾と公式な合意を結ぶことに消極的な国もあるからだ。「東南アジアでは、『一つの中国』政策への対応も一筋縄ではいかない」とカビナワは指摘する。

だが諸外国の政府は、台湾の新型コロナウイルス対策を称賛し、インドネシアなどの国々は台湾の予防策の一部をまねている。カビナワによれば、台湾がマスクや防護服などを寄付する取り組みはアジア全域で「歓迎」されている。

デジタル政策担当の若き逸材・タンの仕事も、日本をはじめとするアジア全域で注目と称賛を浴びている。彼女はデータ主導型の対応でマスクの店頭在庫確認アプリの開発を支援し、オープンソースにすることで利便性を高めた。官民一体の技術者コミュニティー「台湾零時政府」は、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトの開発に協力したことでも知られている。

今日まで台湾は、国際社会でずっと肩身の狭い思いをしてきた。政治的にはもっぱら中国との関連で語られるのみで、名物といえばタピオカミルクティーくらいだった。しかし今度こそ新型コロナウイルス対策で存在感を示せた、とタンは考えている。台湾が民主主義と透明性を重んじ、世界に開かれた社会であることを証明し、感染症の脅威とも忍び寄る専制政治の暗い影とも戦う道筋を示せたのではないか、と。

「台湾モデルの存在、それ自体が」と彼女は言う。「世界の人々に新たな発想をもたらすでしょう」

<2020年7月21日号「台湾の力量」特集より>

※この記事の英文(How Taiwan Beat COVID-19 With Transparency and Trust)はこちら

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