アカデミー賞3冠!今週公開『1917』が「ワンカット」で捉えた戦争の恐怖
移動式のカメラを用いて長回しで撮るという手法は、気が付けば戦争映画の定石の1つになっている。サム・メンデスの新作『1917 命をかけた伝令』も、全編をワンカットで撮影したかに思わせる手法を用いた斬新とも伝統的とも言える作品だ(本作はゴールデングローブ賞の作品賞〔ドラマ部門〕と監督賞を受賞。アカデミー賞でも10部門にノミネートされ、撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門で受賞を果たした)。
物語は至ってシンプルだ。野原で昼寝をしていた英軍の若き兵士スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーンチャールズ・チャップマン)が司令官(コリン・ファース)に呼び出され、塹壕に直結した指揮所に出頭する。
2人に与えられた任務は、最前線にいる友軍に作戦変更の密命を伝えること。失敗すれば、ブレイクの兄を含む同胞1600人がドイツ軍の待ち伏せ攻撃で命を落とす。映画の開始早々、2人の危険なミッションが始まる。
撮影監督は『ブレードランナー2049』でアカデミー賞に輝いたロジャー・ディーキンス。カメラは兵士たちに密着し、その不安な表情をクローズアップし、戦場を俯瞰し、臨場感を途切れさせない。
この作品では、全編をワンカット映像に見せるためのトリックが随所に使われている(アルフレッド・ヒッチコックの『ロープ』やアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』も同じ手法を使った)。
実際、戦場にはカット割りの痕跡を消すチャンスがたくさんある。真っ暗闇もあるだろうし、砲弾の煙で視野を塞いでもいい。なんなら主人公を気絶させる手もある。そういうトリックに、気付くことはできる。
しかし、さすがディーケンス。少しも不自然なところがない。だから筆者も撮影技法のことなど忘れて、ドイツ軍が放棄した塹壕を巨大なネズミと一緒にはい回る2人の若者の恐怖と不安を肌で感じた。