インド製ジェネリック薬品の恐るべき実態
現在、アメリカでの処方薬の90%は安価なジェネリックだ。大半は外国で製造されている。そして全医薬品の有効成分の80%が、中国とインドで生産されている。医薬品の国産から外国産への移行は、この20年くらいの現象だ。FDAの査察数を見ると、2005年には国外が国内を上回るようになった。一見したところ、外国の製薬会社とアメリカの消費者はウィンウィンの関係になる。外国企業は世界最大のアメリカ市場に参入でき、アメリカの消費者は効能が同じで安価な医薬品を手に入れられる。
ところが外国製の薬の品質に問題が浮上し、消費者の不安をかき立てている。毒性のある不純物や危険な微粒子が混入し、未承認の成分が使われていることが発覚した。アメリカに届いているのは、先発医薬品とは中身が異なるジェネリック。この1年だけでも、一部の高血圧治療薬に発癌性の疑われる成分が含まれていたため、リコールを命じられている。
FDA向け「査察ツーリズム」
FDAは「グローバルな警戒」を怠らず、「ジェネリック医薬品の製造元には世界同一の基準と査察を求めている」と主張する。アメリカ市場への参入を望むなら定期的な査察を受け入れ、FDAの厳しい基準に従わなければならないということだ。
しかしラルは、これらを無視するインド企業を発見した。FDAは国内では抜き打ちで査察を行う。だが外国では、ビザの取得やアクセスの問題で数週間前、あるいは数カ月前に査察の実施を通告するのが普通だという。偽装するには十分な時間だ。
「工場は従業員に社内用のメモや覚書を回し、FDAの査察に備えてデータをごまかすよう指示している」と、ラルはFDA本部(米メリーランド州)に報告した。査察が事前通告されていれば、さまざまな準備が可能だ。査察チームが泊まるホテルの従業員も、彼らの日程を企業側に伝えていた。
そして企業は買い物やゴルフ、タージ・マハル観光などで査察官を接待漬けにした。そんな「査察ツーリズム」で、査察官は「囲い込まれ、企業側の言いなり」になっていたわけだ。こうした腐敗を一掃するため、ラルは一計を案じてFDA本部に掛け合った。査察日程の事前通知や企業側に旅程を組ませる慣行を廃止し、インドでの査察は全て直前の通知(あるいは通知なし)で行うという提案だ。
2013年12月、ついにFDAがゴーサインを出した。ラルはさっそく抜き打ち査察の準備にかかった。まず消費者安全監督官のアトゥル・アグラワルに、アメリカから来る査察チームとの連絡業務の一切を委ね、いつ誰が来るのかが企業側に漏れないようにした。査察チームの旅程もアメリカ大使館を通じて手配し、FDAの現地事務所には知らせなかった。現地の職員は企業側と通じていたからだ。