AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?
監視カメラのスマート化に必要な高度なAI技術を開発するのは、大学発のスタートアップだ。業界を牽引するのは商湯科技(センスタイム)と嚝視科技(メグビー)の2社。センスタイムは香港中文大学の研究所を前身に14年に創設され、メグビーは北京の名門・清華大学の卒業生が11年に創業した。いずれも世界的なコンテストで優勝するなどの実績を残している。
ただし、中国の技術が他国を圧倒しているわけではない。要素(基本)技術の開発では他国と同程度でも、社会実装(開発された技術の実用化)のスピードが極めて速いというのが実態に近い。社会実装が速ければ、それだけ改善点も早く見つかり、技術改善のペースも上がっていく。
こうして進化を続けるスマート監視カメラをさらに広範囲に敷設する計画が始まっている。15年からスタートした「雪亮工程」だ。天網工程が主に都市部をカバーするものだったのに対し、農村部も含めた重点監視地域の全てに2020年までに監視カメラを設置する計画だ。
18年2月13日付「法制日報」紙(電子版)に、雪亮工程がどのように機能しているかを示す、山東省の宋河村という農村に住む治安ボランティアの例が紹介されている。
尹(ユン)は......孫をあやしながら、テレビに映し出された「平邑スマート社区」システムの映像を通じて、村の状況を見守っていた。同システムの「私の治安」機能では同時に6台分の監視カメラ映像を表示させることができる。まさに「探頭站崗、一鍵巡邏」(部屋の中から警備に就き、クリック一つで巡回するという意の警察の標語)を実現しているわけだ。17年のある日、尹は映像を見ていると、ナンバープレートを付けていない車が村内を走り回っていることに気が付いた。やがて車から人が降りてきて、ある家の鍵をこじ開けようとしているではないか。尹はすぐにテレビのリモコンに付いている「ワンクリック通報」ボタンを押した。連絡を受けた宋河村雪亮工程担当者はただちに巡視員に連絡。警官と共に現地に向かい、泥棒を逮捕した。
雪亮工程では農村部で監視カメラ網を整備し、映像データを県・市・村という3層の自治体で共有することが主眼とされているが、宋河村ではそれに加えて一般の村民が監視に加わる機能まで備えているわけだ。
監視カメラでネコババも減る
雪亮工程と並ぶもう1つの最新プロジェクトが「一体化連合作戦プラットフォーム」だ。地域によって機能は異なるが、警察や消防など治安関連の全情報を集約し、どこに警官や消防隊員がいるか、どこに監視カメラがあるかなどをデジタル地図上に表示する。指揮本部のスクリーン、管理者のパソコン、パトカーなどの車載設備、警官や消防隊員のモバイル端末で同じ情報を閲覧できるようにするものだ。