目に見えぬ環境危機、海の生物に何が起きているか?
水面下で起きている変化は学術上の問題ではない。国連食糧農業機関(FAO)によると、漁業は世界で年間1400億─1500億ドル(約16兆─17兆円)のビジネスとなっている。一部の国では、海産物は普通の人の食事の半分を占める。
だが、世界各地の海で起きているこのような大規模な生物の移動による影響は、より身近な性質のものだ。
米メーン州のロブスター漁師やノースカロライナ州の漁師の暮らしが危ぶまれている。イワシを食べるポルトガル人や海産物が大好きな日本人の文化遺産も危機に瀕(ひん)している。気候変動が一因となって急成長している水産養殖産業は、西アフリカの伝統的な漁業を崩壊させ、東南アジア沿岸部のマングローブ生育地を破壊している。
以下に、各地の状況を簡単に説明する。
●日本
日本近海では過去100年において平均海面水温が約1.11度上昇した。これは世界全体の伸び(0.54度)より大きい。海水温が上昇した海域を避けようとしてスルメイカが北上しているため、漁獲量が減り、価格が上昇している。イカ釣りで知られる函館などの漁師だけでなく、すし店や海産物を愛する国民の暮らしに打撃を与えている。
●米ノースカロライナ州
約40年前、ここはナツヒラメが大量に確認される生息地だった。だが近年では、40キロ北方で見つかることが多い。
●米メーン州
1980年代と90年代は、米国で獲れるロブスターのうちメーン州産は50%だったが、今では85%近くに上る。
●ポルトガル
スペインのガリシア州からポルトガル南部に至る大西洋沿岸地域にかけて生息するイワシは、ほぼ壊滅状態にある。
●ノルウェー
より多くのサケ養殖業者が北極圏への移動を余儀なくされる可能性がある。
●モーリタニア
セネガル沖とモーリタニア沖の海水温上昇により、1995年以降、イワシの仲間は320キロ以上の北上を余儀なくされた。
●マレーシア
赤道付近の生物は、より高緯度に生息する耐寒性のある同類と比べて、穏やかな温度上昇にも耐えるのが困難な可能性がある。
(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)
[30日 ロイター]
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