今こそ、シリアの人々の惨状を黙殺することは人道に対する最大の冒涜である

2017年9月23日(土)11時50分
青山弘之(東京外国語大学教授)

<シリア内戦を終息させようとしている今、シリアの人々の惨状を黙殺し続けることは、欧米諸国のシリア内戦への干渉政策の根拠だったはずの人道に対する最大の冒涜である>

国際紛争としてのシリア内戦は終わった――5月以降のロシア、トルコ、イラン、米国による一連の「取引」によってもたらされたシリア情勢の変化には、この奇妙な言い回しがもっともふさわしい。

シリア政府への実質的屈服を意味する合意

取引は、アスタナ・プロセスと呼ばれる停戦協議と、イスラーム国に対する「テロとの戦い」という二つの枠組みのなかで繰り返された。

アスタナ・プロセスは、欧米諸国、サウジアラビア、カタールとともにアル=カーイダ系組織を含む反体制派に梃子入れしてきたトルコが、シリア政府を支援するロシアとイランに歩み寄ることでかたちを得た。

シリア軍によるアレッポ市東部完全制圧(2016年12月)を受け、この3カ国は2017年1月にカザフスタンの首都アスタナで高級事務レベル協議を開始、5月に開催されたアスタナ4会議で、緊張緩和地帯を設置することに合意した。

緊張緩和地帯は、係争地であったイドリブ県および周辺地域からなる北部(第1ゾーン)、ヒムス県北西部(第2ゾーン)、ダマスカス郊外県東グータ地方(第3ゾーン)、ダルアー、クナイトラ、スワイダーの3県にまたがる南西部(第4ゾーン)の4カ所からなり(地図1参照)、そこでのシリア軍と反体制派の戦闘停止、合同監視部隊による停戦監視、シリア政府支配地域を経由した人道支援、そしてイスラーム国、シャーム解放委員会(旧シャームの民のヌスラ戦線)の殲滅が定められた。

シリア政府への実質的屈服を意味するこの合意に、シャーム解放委員会と共闘する反体制派は難色を示した。だが、ドナルド・トランプ米政権が、アル=カーイダ系組織と連携する組織への支援停止を決定したことで、彼らは梯子を外され、8月までにラフマーン軍団、イスラーム軍といった主要な武装集団が停戦を受諾した。

米国はまた、ヨルダンとともに、シリア南西部での緊張緩和地帯を設置することでロシアと合意、ロシア軍憲兵隊からなる停戦監視部隊が同地に展開することを許した。

一方、もう一つの有力アル=カーイダ系組織のシャーム自由人イスラーム運動は、イドリブ県でシャーム解放委員会との対立を深めて弱体化、アレッポ県北部でトルコの支援を受ける「家を守る者たち」作戦司令部(別称ハワール・キッリス作戦司令室、ユーフラテスの盾作戦司令室)に合流し、主敵をシリア政府から西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)に変えることで延命を図った。

地図1 勢力図(2017年5月)

出所:拙稿「欧米で報道されない「シリア空爆」に、アメリカの思惑が見える」Newsweek日本版、2017年5月27日、ロシア国防省HPをもとに筆者作成。

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