スタンガンは本当に安全? 米国で多数の死亡例報告
テーザー銃の製造元は長年、こうした死亡事故について、同社製品が原因ではなく、薬物使用や心臓の既往症、警察による他の武器使用などが原因だと主張してきた。
同社は、テーザー銃使用が原因となった死者は24人にとどまっているとしている。18人が、テーザー銃で撃たれて転倒し、首や頭を強打。6人が、銃の火花による出火が原因だという。テーザー銃による心臓や体への強力なショックが直接の原因となって死んだ人は、1人もいないと主張している。
だが、公的記録はそれとは異なる実態を示している。
ロイターは、1005件の死亡事故のうち、712件の検死記録を入手した。その5分の1以上にあたる153件で、テーザー銃が死因、もしくは死亡原因の1つだと記載されていた。その他の死亡例では、心臓や他の疾患、薬物使用など、さまざまな外傷が死因だとされていた。
折しも、警察官による殺害事件に対する抗議が相次いでいることを受けて、全米でより「安全」な制圧方法の導入が検討されている。テーザー銃による多数の死亡事故の存在が明らかになったことで、米国の警察当局は新たな問題に直面することになりそうだ。
このタイプのスタンガンは2000年代初め以降、火器の代替品としてほぼ全米で導入されており、「安全」な制圧手段の主流となると見込まれているからだ。全米の約1万8000の警察機関の約9割に、テーザー銃が導入されている。
ワイヤーで接続された2本の針を人体に向けて発射すると、電流が流れて神経と筋肉がマヒした状態になり、その間に警官が取り押さえることができる。体に直接押し当てて使うこともできるが、その場合は強い痛みがあるのみで、電流が流れる針は発射されない。
テーザー銃の製造会社は、このスタンガンがこれまでに現場で300万回以上で使用されたと推計している。同社では、自社製品の使用を巡る死亡事故の記録を取っているが、公表はしていない。
ロイターの調査で判明した1005件の死亡事例は、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが2016年末に公表した報告書よりも厳格な基準を使ったにもかかわらず、同報告書に記載された事例700件を44%上回っている。
ロイターの調査結果に対し、テーザー・インターナショナルのスティーブ・タットル広報担当副社長は、どのような武器にもリスクがあるとした上で、テーザー銃は「警察当局にとって、最も安全な武器の選択肢」と断言した。
タットル副社長は、ロイターが入手した検死報告書は、査読を経ていないため信用性が低いと主張。また、担当した検死官や病理学者が、漏れを避けるために、必要以上の死因を記載した可能性もあると指摘した。
1990年代にスタンガンの技術を開発したテーザー・インターナショナルは、4月に社名をアクソン・エンタープライズに変更した。業務内容が、警察用の携帯動画カメラやソフトウェアの開発まで広がったことを受けた社名変更だという。
精神疾患とテーザー銃
米国では、精神病患者向けの福祉サービスに対する政府支出が削減されたことを受け、精神疾患やノイロイーゼ、なんらかの発作を起こした患者などの対応をするため、警察官が呼ばれることがより頻繁になっている。
アメリカ精神医学会の調査によると、警察に対する緊急出動要請の100件に1件が、精神疾患の患者に関わるものだ。こうした現場では、警察官はスタンガンに頼ることが多いと、専門家は言う。
「警官は、現場で福祉ワーカーの仕事を背負わされている。一部では、言葉による説得はそこそこに、まずスタンガンを使っている実態があることを懸念している」と、ユタ州司法当局で法執行を担当したケン・ウォレンティン氏は言う。
一部の連邦裁判所は、テーザー銃の使用は相手が攻撃的な場合に限定するとの判断を示し、こうした基準が広がりつつある。司法問題のシンクタンク、ポリス・エグゼクティブ・リサーチ・フォーラムは、相手が「医療的や精神的な危機状態」にある場合は、テーザー銃使用を控えるよう提言している。
だが警察の使用基準には、大きな幅がある。
現場の警察官にとって、テーザー銃の使用を控えるべき基準の判断は極めて困難だと、警察官や法律家は指摘する。
相手の精神状態をその場で判断するのは、「警官の職務の中で最も困難なものの1つ」だと、ラスベガス都市圏警で警官訓練を担当するエリック・カールソン氏は言う。
トム・シュロックさんにテーザー銃を発射した警察官のサンティアゴ・モタ氏は、証言記録で、現場に到着した時点では、トムさんが精神疾患の問題を抱えていたことを知らなかったと述べた。
出動要請記録は、この件を、精神疾患に絡む強制確保の必要を意味する「5150ホールド」のカテゴリーに分類していた。モタ氏は、この分類に気付かなかったと証言した。
「現場に到着した時、5150というのは聞かなかった」と、モタ氏は言った。
トムさんは、テーザー銃で撃たれたあと、心室細動と呼ばれる脈拍が不規則になる症状を起こし、7日後に死亡した。検死官は、トムさんの心臓には20年前の覚せい剤使用で悪化したとみられるものも含め、多数の問題があったとした。
病院に技術スタッフとして勤務していたトムさんは、子どもたちが幼いころには頻繁にキャンプやハイキングに連れて行く優しい父親だったと、妻のナンシー・シュロックさんは語る。「彼は、私の最愛の人で、子どもの父親でもあった。私の人生はもう元には戻らない」