失敗学の研究者が見た、日本人の「ゼロリスク」信奉

2021年9月12日(日)09時15分
中尾政之(東京大学大学院工学系研究科教授、NPO「失敗学会」副会長)

LUCY NICHOLSON-REUTERS

明日からでよい。「隗(かい)より始めよ」で、身近なことから変革を始めていこう。

大学教員としては学生に、コロナに抗して大学に来て実験して論文を書くチャンスと、コロナに感染するリスクとを秤に掛けて、自分の力でやりたい方向へ進んでほしいと思う。筆者の研究室では、学生全員がリモートデスクトップのアプリを用いて、自宅から実験室のコンピューターやロボットを動かしている。

コロナでオンライン業務を強いられたが、そこで分かったことは日本のデジタル化の遅れだ。手っ取り早く「3密」を避ける方法は最新版のDX(デジタルトランスフォーメーション)で、若者はそれを事もなげに実行するから頼もしい。

東京五輪では国内外の観客がお金を落とさなかったので、大きな赤字が生まれた。しかし、これまでにコロナ対策で使った政府予算の43兆円に比べれば、赤字額は0.9兆円で2%にしかならず、致命的なリスクと見なすのは酷だ。

日本人選手はインタビューで、開催してチャンスの場を与えてくれた人々に感謝していた。彼らは国家の名誉ではなく、個人の自己発現を求めて戦ったのである。秤に掛けたらチャンスのほうが重かったと筆者は思う。

令和の時代は、何事も自分で考えて、自分で人生を切り開く力が見直されている。おかしなことは見過ごさずに変えていこう。

(※巨大スポーツイベントの未来、「傲慢」と「卑屈」が残した教訓、行き場のない不安と不満......本誌9月14日号「五輪後の日本」特集では、いくつもの側面から東京五輪を振り返る)

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