「ワイン離れに歯止めがかからない」 フランス人が代わりに飲み始めたものとは?

2021年6月19日(土)16時30分
バーツラフ・シュミル(マニトバ大学特別栄誉教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

フランス国民一人当たりの年間ワイン消費量 出典=『Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』

ワインの消費量が減少しはじめたのは、この時期である。1980年を迎えると、1人当たりのワイン消費量は年間約95リットルにまで減り、1990年には71リットルに、そして2000年にはたったの58リットルにまで減った。つまり20世紀のあいだに、ワインの消費量は半減したことになる。

今世紀に入っても減少傾向は続き、最新のデータでは年間約40リットルで、1926年の記録を70%も下回っている。2015年のワイン消費調査では、減少の要因として男女間と世代間でワイン消費量に隔たりが広がっているという傾向が挙げられている。

消費量が伸びているのはノンアルコール類

40年前、フランスの成人の約半数以上がほぼ毎日ワインを飲んでいたのに、いまや日常的にワインを飲む成人の割合はわずか16%だ。その割合を細かく見ていこう。まず性別では、男性が23%、女性が11%。年代別では、15~24歳ではわずか1%、25~34歳で5%に対して、66歳以上は38%だ。

この男女間と世代間の隔たりを見ても、今後、ワイン消費量が増える見込みがないのはあきらかで、しかも、この傾向はあらゆるアルコール飲料に当てはまる。ビール、蒸留酒、シードルも消費量が徐々に減っているのだ。

これに対して、1人当たりの消費量がいちばん伸びている飲み物は、ミネラルウォーターと湧き水を使用したスプリングウォーター(1990年からほぼ倍増)、フルーツジュース、炭酸飲料で、いずれもアルコールを含まない。

こうして、ワインは毎日飲むものではなく、たまに楽しむものになった結果、フランスは昔から維持してきたワイン消費大国の首位の座をスロベニアとクロアチアに明け渡した(両国とも1人当たり年45リットル近くを消費する)。

たしかに往年のワイン消費大国のなかで、消費の絶対量も消費量の相対的な順位もフランスほど下落した例はないが、イタリアもそのすぐ後ろに続いているし、スペインとギリシャでもワイン消費量の減少が続いている。

ワイングラスで乾杯する習慣は絶滅の危機

それでも、フランスには1つだけ、いい傾向が見られる。ワイン輸出があいかわらず好調で、2018年には輸出額の新記録(約110億ドル)を打ち立てたのだ。フランス産のワインには他国産のワインより高い価格がつけられていて、その証拠に、世界のワインおよび蒸留酒の取引量においてフランス産ワインが占める割合は15%であるのに対して、総取引額では30%を占めている。

この20年で1人当たりのワイン年間平均消費量が50%以上伸びたアメリカがフランス産ワインをいちばん多く輸入しているのに加えて、新興の中国市場の需要も増え、総取引額に占める割合が高まっている。

フランスは、これまで世界に数えきれないほどのヴァンオルディネール(テーブルワイン)だけではなく、最高級のグランクリュクラッセも提供してきた。ところがいまフランスでは、脚のついたグラスをあわせて乾杯し、健康(サンテ)を祈る習慣が絶滅の危機に瀕しているのだ。

バーツラフ・シュミル(Václav Smil)

マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授
エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら




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