日本の国是「専守防衛」は冷徹な軍略でもある

2017年4月20日(木)16時40分
冷泉彰彦

必ずしもそうではないと思います。現代の戦争はケーブルニュースとネット動画で国際世論を味方に付けたほうが圧倒的に有利、つまり国際世論を相手にした情報戦という性格を持っています。ですから、反対に先に撃って「戦争の原因を作り」国際世論を敵に回せば、いかに軍事面で優位に立っていても大局的には不利になり得るのです。

この点で、残念ながら旧枢軸国というイメージ的なハンデを背負った日本は、少し他の国とは条件が異なります。他の国よりも余計に先に撃っては損になるのです。何とも不公平な話ですが、歴史的な宿命ですから仕方ありません。不愉快だと憤ることはできても、相手のある話、しかも損得の話として、こうしたハンデがついているという計算は必要なのです。

ですから、反対に、被害を抑えつつ相手に先に撃たせたというイメージを世界中に拡散して、被害者の正義と反攻の正当性、そして何よりも広範な国際世論の支持をゲットするというのが有事の初動における重要な作戦になります。

もっと言えば、先に撃ってしまったら「枢軸日本の軍国主義が復活した」という敵方のプロパガンダに口実を与えてしまいますが、相手に先に撃たせれば「平和主義国家の日本が被害を受けた」というイメージを得ることができる、この差は途方もなく大きいと思います。

【参考記事】自衛隊の南スーダン撤退で見えた「積極的平和主義」の限界

対米戦争の敗因

何よりも、様々な駆け引きの結果として、先制攻撃に追い込まれたことが、第二次大戦における対米戦争の敗因の一つだという議論があります。これも倫理的な問題というより、軍略における錯誤の一つとして教訓にしてきたのは事実だと思います。

専守防衛というのは、そのような冷徹な軍略の一種であって、創設以来の自衛隊はそのような軍略を大前提として、国民の生命財産を守るための方略を様々に研究し、また実戦部隊の練度を高めてきたわけです。

今回の北朝鮮危機を契機として、先制攻撃を可能にすべきという議論があるようですが、現時点で国是として採用していないのは、純粋な軍略の問題として理由のあることと考えます。

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