アメリカから見ると自民党はめっちゃリベラルです

2021年9月25日(土)17時40分
パックン(パトリック・ハーラン)

<富の再分配に弱者救済...自民党総裁選の候補たちの主張は、アメリカ基準では完全にリベラル。もう「保守」と名乗らなくてもいいんじゃない?>

自民党の総裁選挙を9月29日に控えて、またまた日本の政治の「不思議」に僕は驚かされている。今回特に目立っているのは「保守だ!」と大声で主張しながら、アメリカ人から見て完全に「リベラル」なレトリックを繰り出す候補たちだ。

分かりやすいのは河野太郎氏。NHKの『日曜討論』では「これから少子高齢化の日本の中で大事なのは人が人に寄り添っていく、安心感がある、ぬくもりのある社会だと思う。本来保守主義というのは、度量の広い温かい寛容な社会を目指すのが保守主義なんだと思う」と述べた。

安心感、寄り添う、度量の広い、寛容。こういった形容詞は、手厚い社会福祉制度が働く、ダイバシティーを受け入れるインクルーシブな社会を目指すリベラル派が普段使うものだ。アメリカでは、規制を廃止し、減税しながら公的サービスの削減を目標にする「小さな政府」主義の保守政策を表現するとき、「ぬくもり」なんか用いられない!

これらの形容詞に「本来の保守主義」をくっつけるのは、アメリカ人の感覚では「肉汁あふれる、うまみと脂身たっぷりでなめらかな舌触りの......レタス」のような、意外過ぎる発言になる。

野田聖子候補においても同じような現象が見受けられる。立候補表明をしたぶら下がり会見では弱者救済を中心に立候補の動機を述べた:「これまで主役になれなかった女性、子ども、高齢者、障害者が生きる価値があると思える保守の政治をつくりあげたい」。ほかの場でも、LGBTQ、貧困、孤独などに苦しむ人々に寄り添うとして、「全ての国民が力を発揮できる『フェア』な制度」を目指すと宣言している。

アメリカ人が理解する保守は実力主義の社会を理想とする。弱者救済に政府が執着すると、結局は実力で成功した人の資産を取り上げたり、優秀な「強者」から公平なチャンスを奪ったりする結果になる!というロジックに沿って、いわゆる救済策に原則として反対する。野田さんが言っている「フェア」はアメリカの保守が考える「アンフェア」に当たる。まあ、バンジージャンプをする前に日本語でなぜか「万歳!」と叫ぶアメリカ人もいるし、外来語の使い方は自由ということにしようか。

高市早苗さんでさえ「リベラル」

河野さん、野田さんは「保守」と名乗りながら、女系天皇や同性婚という「先進的な」制度を認める、あるいは検討すると公言している。一方、これらに関して、岸田文雄さんや高市早苗さんは「反対」あるいは「認めない」として、保守色を濃くしている。

だからと言って、後者の2人がピュアな保守派とは思えない。岸田さんは富の分配を通して格差社会の是正を目指す!子育て世帯の住居費や教育費を支援する!日本の過去の植民地支配を謝罪した「村山談話」を維持する!などと、アメリカの民主党どころか、日本の共産党のマニフェストにも載りそうな、リベラルな公約を多く掲げている。

高市さんは敵基地攻撃能力を保有可能にする法整備を目指す!首相就任後も靖国神社に参拝する!などの公約で、ほかの三人よりバリバリな保守アピールができている。独立主義、実力主義の一面もありそう。高市さんの公式サイトを検索してみたが「弱者」という単語自体がほとんど登場しない。過去のコラムに「デジタル弱者」はあった。あとは「弱者のふりをして税金をだまし取る」といったニュアンスで使われるぐらいだ。これは本物の保守派だ!

と、確かにそのように見えるが、それでも高市さんでもアメリカの保守理念にはそぐわないだろう。例えば、高市さんは銃の保有権利を主張しないでしょう?銃どころか、刃渡り6センチ以上の刃物でさえ持ち歩けない日本の現状にも文句はなさそう。また、高市さんは、レイプや近親相姦による妊娠も含む例外なしの人工妊娠中絶禁止令を、僕が知っているかぎりでは推していない。

同様に、高市さんは文部科学省を廃止したいとは言っていないはず。なにより、高市さんは立憲民主党や共産党など、対立する政党の支持者が多い選挙区の投票所を減らしたりして他党に入る票を減らそうとしていないでしょう?アメリカの保守派政治家にはこれらの政策が欠かせない。......高市さんはやはりリベラルだね、アメリカでいえば。

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